中国 立て続けに対豪「制裁措置」

 中国はオーストラリアに対し、経済報復カードを次々に切っている。豪州は4月、新型コロナウイルスの発生源調査を世界に呼び掛けた。これに中国は猛反発、豪州からの輸入や自国民の豪州旅行を制限する露骨な「制裁措置」に踏み切った。さらに今月1日からは輸出規制を厳しくする輸出管理法が発動、中国の力で威圧する「戦狼外交」に拍車が掛かる。中国が狙っているのは日米が牽引(けんいん)する「自由で開かれたインド太平洋構想」の分断だ。
(池永達夫)

拍車掛かる「戦狼外交」
インド太平洋構想の分断狙う

 中国商務省は11月27日、豪州産の輸入ワインが不当に安い価格で販売されているとして、反ダンピング(不当廉売)措置を取ると発表した。ダンピングを表向きの理由に仕立てた対豪制裁の一環だ。

趙立堅氏のツイッターに載る画像(画像の一部を加工しています)

趙立堅氏のツイッターに載る画像(画像の一部を加工しています)

 中国はその直前にも、豪州産ロブスターに通関検査を導入するとともに、北東部クイーンズランド州からの木材の輸入も一時停止した。通関検査導入で豪州産ロブスターは空港で足止めされ、腐った。中国の露骨な嫌がらせで、昨年、フィリピン産バナナに厳しい通関検査を適用し埠頭(ふとう)で大量に腐らせたのと同じ嫌がらせだ。

 フィリピン同様、豪州生産者は出荷の一時停止を余儀なくされている。クイーンズランド州からの木材輸入停止の理由は、害虫の存在とされたが、これも同様の背景がある。

 中国は5月、豪州産牛肉の輸入を制限、大麦への関税も約80%へと引き上げた。まさに絵に描いたような「意趣返し」で、米国との貿易戦争で自らを「自由貿易の守護者」とまで言い切った中国が、豪州に対しては経済報復に出ている。爪を隠し下手に出る韜光養晦路線から力を誇示する強硬な戦狼外交へ舵を切った中国の外交路線の変化を如実に示すものだ。

 中国の狙いは、日米が牽引する「自由で開かれたインド太平洋構想」の分断にある。また、自国の意に沿わない豪州を“血祭り”に上げることで、他国を畏怖させ、世界が中国になびくように仕向けようとしたものでもある。

 さらに1日から、自国の安全保障を理由に輸出規制を厳しくする輸出管理法が発動し、中国の力で威圧する「戦狼外交」に拍車が掛かる。

 人治国家の中国にとって法律は、自国民や通商相手を縛り上げる道具でしかない側面がある。この点が民主主義国家の法治主義と意味合いを異にする。

 民主国家の法は、政府自身もその法に違反すれば相応の懲罰を免れ難いが、法治の上に人治を置く共産党独裁政権下の中国では、この普遍性が欠落している。

 なお、犬猿の仲になりつつある豪中関係は現在、異色の問題も浮上してきている。

 中国外務省の趙立堅報道官が、アフガニスタン派遣の豪州軍による民間人違法殺害問題への非難をツイッターに投稿した際、出所不明のCG画像を添付し物議を醸している。この画像は豪州軍兵士がアフガンの子供の喉元に血まみれのナイフを突き付けたものだ。

 モリソン豪首相は「捏造(ねつぞう)されたフェイク画像だ。中国政府は恥を知るべきだ」と反発、削除と謝罪を求めた。根拠がない出所不明の画像に飛びつき、それで相手を非難するのは悪質なプロパガンダでしかない。

 趙氏は今年3月、新型コロナをめぐって「米軍が感染症を武漢に持ち込んだかもしれない」とツイッターに投稿した人物だ。趙氏は戦狼外交に転じた中国の、噛(か)みつき犬としての役回りを演じているだけなのかもしれないが、大国としての矜持(きょうじ)を忘れると国際的孤立は免れ難いと心すべきだ。