米国も中国も弱体化する年
栄枯盛衰は世の常なり
目安となる通貨や国内状況
国家の運命(盛衰)は、その国の通貨の運命(盛衰)と不可分な関係にある。――以上は1976年にノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマン博士が述べている名言である。
事実、世界史を見ると、栄枯盛衰は世の常である。紀元前には全ての道路はローマに通じると言われたほど地中海世界を支配したローマ帝国が興隆したが、紀元395年には分裂して、その後、帝国は消滅してしまった。また、19世紀から20世紀にかけて、世界の全ての大陸に領土を有し、その海軍は七つの海に君臨して、太陽が沈むことが無いと言われた大英帝国が出現して、世界最大の帝国としてその影響力を発揮していたが、その大帝国も、20世紀半ばに第2次世界大戦が始まると、消滅してしまった。
そして1945年にこの大戦が終わると、世界には二つの超大国が出現した。ソ連とアメリカである。
共産主義国ソ連はポーランド、チェコなどの近隣諸国をモスクワ政府の支配下に入れようとして、ソ連の衛星国にしたが、共産主義経済が国民生活に安定をもたらすことができず、91年12月にはソ連が崩壊して、衛星諸国だけでなく、ソ連を構成していた各共和国も独立した。これは共産主義そのものがうまく機能しないことを意味するもので、共産主義そのものの失敗を意味する。このために超大国はアメリカだけになった。
アメリカは天然資源も豊富で、領土的野心はなく、アメリカの安全の維持のためには、世界全体の平和と安全を維持する必要があると考えているから、どの国もアメリカから衛星国にされる恐れがない。従って、多くの国々がアメリカと安全保障条約を締結している。言うまでもなく日本もそうである。しかも最近、中国が必要以上に軍備を拡張しているだけでなく、日本やフィリピンとの間に領土問題を起こしているので、各国にとって、アメリカとの安全保障条約はますます重要性を増している。
ところが、そのアメリカはオバマ氏が大統領になって以来、毎年、大幅な赤字財政が続いているために、彼が就任当時10兆㌦であった政府の累積債務が、17兆㌦を超えただけでなく、最近では政府が破産状態寸前にまで陥った。つまり、アメリカの通貨ドルは国際的信用を失いつつある。こうして国家の盛衰はその通貨の盛衰と不可分な関係にあるというフリードマン博士の名言通り、ドルが国際的信頼を失いつつあることは、アメリカの衰退につながってきているのである。アメリカが、ローマ帝国、大英帝国などの轍(てつ)を踏む運命が目前に迫っていると言わざるを得ない。
それではアメリカ以外の国際情勢はどうであろうか。
現在のところ、ある国の経済力を表示する国内総生産(GDP)では、アメリカの右に出る国はないが、近く中国がアメリカを追い越すであろうと言う人が多い。アメリカの人口は3億2000万で、中国はその約4倍の13億4000万であるから、中国がアメリカを追い越しても不思議ではない。
ところが、総合的国力の中では国民の国家に対する忠誠心も重要な要因であり、これを考慮してみると、共産党一党独裁の中国の国力はそれほど強大ではない。中国の西北地域を占める新疆ウイグル地域は、中国から独立しようという運動を行っているし、官僚や政治家の汚職を指摘して反政府暴動が全国的に無数に起こっているが、このように内紛が中国の国力を弱体化している。
共産主義経済がうまくいかないことはすでに述べたが、このことを熟知していたかつての指導者鄧小平氏は、「猫は黒くても、白くても、鼠を沢山捕る方がいい」と言って、政治的には共産党一党独裁をそのままにして、経済的には市場経済ないし資本主義を取り入れたが、共産主義者の頭のままでは両者がうまくいくはずがない。
また、北京政府は不当に軍事費を増額しているので、近隣諸国が中国と協力するよりも、中国を警戒するようになっており、中国の国力は新年に伸びるよりも、衰える可能性の方が大きいといえよう。
一方、現在ヨーロッパで大きな問題になっていることは、危機に直面している欧州諸国の通貨ユーロを如何にして防衛するかということで、それを防衛するためには、一部の国々、例えばトルコ、スペインなどが支出を減らして耐乏予算を組まなければならない。ところが、国民が耐乏予算に反対しているので、ドイツのメルケル首相が解決策を模索しているが、これはユーロ諸国全体の利益になるので、おそらく成功するであろう。
また、シリアが内乱で毒ガスを使ったので、ロシアのプーチン大統領が提案したように、シリアが保有する大量破壊兵器を廃棄する問題が残っているが、これは国連安全保障理事会がすでに取り上げているので、近く解決する可能性が大きい。
もう一つの問題は、イランに核兵器開発を断念させることである。イランの指導者はこれまで何度も「イスラエルを地図の上から抹殺する」と公言しているので、これはイスラエルだけでなく、ユダヤ人が多数住んでいるアメリカにとっても重大な問題であるが、この解決策は現段階では見当たらない。
(なす・きよし)