自主防衛を目指すべき情勢
頼れないオバマ米政権
「単独自力」でなく“自助努力”を
米経済誌「フォーブス」今年の「世界で
最も影響力のある人々」の番付によれば、オバマ米大統領は2位に降格した。シリア化学兵器対策、情報機関の盗聴や、財政窮迫によるデフォルト危機などで、既に「レームダック、オバマ」との声もある。わが国でも同大統領の安全保障政策に対する指導力不足を憂慮する意見も散見される。
産経紙上で在米記者の古森氏は「米のアジア重視は言葉だけか」と題する厳しい批判を発した。「オバマ政権が宣伝してきた『アジア最重視』、『アジア再均衡』といった一連の政策標語がここまで声価を落とすとは思わなかった」と述べ、結論として「いまや米国が内政でも外交でも大きな曲がり角を迎えたことは否定できまい。日本としても自助自立の努力の意識が欠かせない時代の到来といえそうだ」(10月26日付)と警告している。説明の論拠は、米中央情報局(CIA)の戦略やアジアの元専門官の集団である安全保障研究調査機関「リグネット」がまとめた報告である。
同記事によれば、オバマ大統領は中国の大軍拡に対応して、米国が、それまでの中東やアフガニスタンに投入した兵力の撤退や削減分を、アジア太平洋に回すという「ピボット戦略」を強調してきたが、リグネット報告は、ピボット戦略を「中身のない美辞麗句(レトリック)」と断じるとともに、それどころか、「米国の対外イメージへの大きな打撃」とまで批判しているというのだ。この米国の衰退ぶりは深刻だ。
第2次世界大戦は、1945年、日本の敗戦によって終結し、多くの植民地は解放され、独立した。国連も創設され、その加盟国は190カ国にも達した。しかし、世界に紛争やテロによる戦争の火種は断絶されず、米国は世界の警察官としての自負の下に(中東に対しては石油資源確保の底意はあったであろう)、世界各地の問題に関与し処理してきた。
91年、ソ連は崩壊してロシアが誕生し、米ソ対峙の東西冷戦時代は米国勝利のうちに終わった。01年、米国同時多発テロがあり、米国など多国籍軍はテロ撲滅のためアフガニスタンに進攻し苦戦したが、テロとの闘いは未だに完結してはいない。この間、戦費は増加し、08年リーマン・ショックもあり、財政逼迫(ひっぱく)により、米国は5000億㌦の軍事費強制削減を余儀なくされ、「世界の警察官」の負担を拒む厭戦(えんせん)の気運もある。
他方、アジアでは中国の驚異的発展があった。49年蒋介石国民党を駆逐し、共産党政権による中華人民共和国が発足した。当初はソ連との国境紛争対処や飢餓問題まであり、苦難の時代もあったが、鄧小平の改革開放政策は成功し、経済は発展し、これに付随して軍事力も飛躍的に増強され、今や米国に比肩される勢いである。
この状況を念頭に先述の古森氏の記事に戻るが、リグネット報告は、オバマ政権は、アジア太平洋に、中国の軍拡を抑止するため必要な兵力投入は、全く実行せず、今後それを実行する意欲、能力もないようだと推測しているという。ピボットの唯一の措置であるオーストラリアヘの海兵隊員も、「2500人の駐留は早くとも2017年までは実現せず、それでもなお中国軍の増強ぶりとくらべると『再均衡』にはほど遠いとされる」という。
その上で、「オバマ政権は米国の歴代政権が絶対に許容しないと宣言してきた北朝鮮の核兵器保有を事実上すでに許し」、また9月、同大統領は国連での演説で「友好国への防衛誓約の継続を力説したことを強調した」ことから、「アジア最重視」も「言葉だけらしいことの例証」であり、さらに「米国は友からも敵からも超大国とみなされなくなる危険」までリグネット報告は指摘しているという。
日本は敗戦後、幸運にも平和を享受してきた。日米同盟と自衛隊による抑止効果である。集団的自衛権不行使との憲法解釈により、参戦を固辞し得た一面もあるだろう。しかし、かつてイラクのクウェート侵攻に対する湾岸戦争で日本は130億㌦もの巨費を支出したが、人的貢献をしなかったため、国際的には高く評価されずに、現金支払機とまで言われた。なお、未だに国連平和活動(PKO)本体業務には不参加である。
元米国務省東アジア・太平洋局日本部長ケビン・メア氏は、「集団的自衛権の解釈変更は待ったなし」と指摘し、北朝鮮と中国の脅威に日米が共同で行動するほうが有効だと主張している。また、沖縄には在日米軍も駐留し、日米安保体制の強化により東アジアは、より安定すると訴えている。
「自主防衛」とは単独自力防衛ではない。日本は、単独で侵略に対応できない場合、米国の協力により共同作戦を行う。安倍総理は、日本の防衛力強化は、自国のためだけではなく、アジアの平和に貢献するとして、積極的平和主義と称し、自主防衛を推進する意向である。
10月、本欄で述べたように、日本の自助努力は不足しており、特に、国民は偏向した平和主義に堕し、外敵の侵略から祖国を守る意欲は弱い。防衛力の増強、国民の国防意欲高揚、および集団的自衛権不行使、非核三原則などの見直し、並びに緊急事態法、領域警備法などの制定を急ぐべきである。周辺自由諸国と結束を固めるは当然である。
(たけだ・ごろう)