成果なかった米露首脳会談
得点はプーチン氏側に
トランプ氏には批判が殺到
トランプ米大統領とプーチン・ロシア大統領は16日、フィンランドの首都ヘルシンキのニーニスト同国大統領公邸で会談した。両首脳の顔合わせは、昨年7月のドイツでの20カ国・地域(G20)首脳会議、11月のベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議以来で、今年3月にプーチン氏が大統領選挙で圧勝して以来初めての本格的会談である。
かつて米ソ首脳会談と言えば、両国首脳が冷戦終結などの大きな節目で会談し、国際情勢の局面を転換してきた。1972年5月、ニクソン米大統領が現職大統領として初めてモスクワを訪れ、ブレジネフ共産党書記長と会談。第1次戦略兵器制限条約(SALTⅠ)に調印して、核軍拡競争に歯止めをかけ、デタント(緊張緩和)時代の幕開けとなった。89年12月にはブッシュ米大統領(父)とゴルバチョフ共産党書記長が地中海のマルタで会談し、東西冷戦に終止符を打つと宣言した。
戦後長く続いた東西冷戦が終結した後、主にウクライナ危機をきっかけに「新冷戦」と言われるほど最悪の水準に落ち込んだ米露関係。その改善の契機となるのが期待されたヘルシンキ首脳会談だった。しかし、両首脳はそろって関係改善に意欲を示したものの、目立った具体的成果はなかった。
会談終了後の共同記者会見で、トランプ大統領は「深く建設的な対話を行った」と会談を振り返り、プーチン氏を「良い競合者」と持ち上げ、「(ロシアとの関係は)これ以上なく悪化していたが、(会談した)この4時間で変わった。長いプロセスにおける始まりで、明るい未来に向けて最初の一歩を踏み出した」と楽観的な見通しを述べた。
一方、プーチン大統領も、「会談は率直かつ実務的な雰囲気で行われた。非常に成功した有益なものだった。米露関係は困難な時を迎えているが、きょうの会談はわれわれが共に負の状況に立ち向かうという願いを反映したものだ」と強調した。
首脳会談では、両国関係に暗い影を落とした2016年の米大統領選でのロシアの介入疑惑も取り上げられた。会談直前に米司法当局が、ロシアの選挙介入を認定し、連邦大陪審が13日、民主党陣営にハッキングしたとしてロシアの情報部員12人を起訴したと発表していただけに、両首脳の発言に注目が集まった。プーチン大統領は「ロシアは干渉したことはないし、米国の内政問題に介入することはない」と従来通り、ロシアの関与疑惑を改めて、「会談で非常に力強く」(トランプ大統領の言葉)否定したという。
ロシアとの共謀を否定してきたトランプ大統領も、ロシアによる選挙介入について、「それがロシアだという理由が見当たらない。プーチン氏を信じる。ロシア疑惑の捜査はばかげており、“米国にとって災難”で、共謀はなかった」と述べて、ロシアへの追及を避けた。
しかし、こうしたトランプ大統領のプーチン寄りの発言に米国国内で一気に批判が高まった。米国の与野党の有力議員らは、トランプ大統領の対ロシア融和姿勢を弱腰だと相次いで非難した。彼らはとりわけ「ロシア疑惑」を強く追及しなかったことを問題視し、11月の中間選挙にロシアが再び介入することへの懸念が表明された。
トランプ大統領は帰国後の17日、「ロシアではないという理由が見当たらない」と言うところを言い間違えたと発言を訂正したが、トランプ批判は収まらない。反トランプで有名な与党共和党の古株で病気療養中のマケイン上院議員は声明を発表、「ヘルシンキ会談が悲劇的な間違いだったことは明白だ。(共同記者会見でのトランプ大統領の態度は)記憶する限り、最も恥ずべき行為の一つ」と酷評した。同じ共和党の重鎮グラハム上院議員は「トランプ大統領はロシアに選挙介入の責任を取らせ、今後の選挙に関して警告する機会を逃した。トランプ氏の姿勢はロシアから『米国の弱さの表れ』と見なされるだろう」と手厳しい。
また、野党民主党の場合、同党のシューマー上院院内総務は、トランプ氏はロシアの介入を断定した米当局ではなく、プーチン氏の側に立ったとして、「愚かだ」と糾弾した。下院情報特別委員会の民主党トップのシフ下院議員は、トランプ氏は中間選挙に介入してもよいとロシアに「青信号を送った」と批判。民主党下院トップのペロシ院内総務は声明で、「トランプ氏がプーチン氏の前で見せた弱さは、ロシアがトランプ氏について何かを握っていることを証明した」と指摘した。
一方、ロシア国内での首脳会談の評価だが、米国国内の評価とは対照的で、「成功」とする見方が広がっている。カーネギー財団モスクワセンター長トレーニン氏は「この4年間で初めてデタントをもたらした会談」と評価した。シンクタンク「ロシア国際問題評議会」のティモフェエフ研究員は、会談の内容自体は乏しかったものの、「ロシアは孤立しておらず、米露首脳間の対話も行えることを示した」点でプーチン氏の得点になったとの見方を表明。また、モスクワ国際関係大学のスシェンツォフ准教授も「プーチン氏にとって会談は成功だった。記者会見もよく準備して臨んだのは明らかだ」と指摘した。
(なかざわ・たかゆき)