日米原子力協定の行方
大勢は自動延長の方向
核燃料サイクルの確立急務
最近、本紙(1月18日付社説)をはじめ、各紙、テレビ等で日米原子力協定の延長問題が取り上げられている。30年以上も前になるが、筆者は難航したこの日米原子力協定締結交渉に日本代表として終始関与したので、協定のとりあえずの有効期間の30年が間もなく訪れるとあって、月日の経(た)つ早さに感無量である。
日本の原子力利用は1950年代に米国との協力の下で始まった。米国から核燃料、資材の調達、技術の供与であり、その基礎となったのが、日米原子力協定であった。米国との協定は最も古く、重要なものであったが、米国からは合わせて、日本に対し、核不拡散の順守を課するものであった。米国は核不拡散について、核拡散防止条約(NTP)/国際原子力機関(IAEA)を中心とする多国間メカニズムを必要条件としてはいたが、それだけでは十分ではなく二国間ベースでの規則を不可欠としていた。
現行の88年協定以前は、再処理をはじめとする日本の核燃料サイクルに厳しい規制が課され、米国が事実上の拒否権を持つという一方的な協定であった。現在でも多くの国に対し、米国は厳しい規制をかけている。米国の原子力政策は、74年のインドの核実験を契機に一層強化され、日本に対しても、当時のカーター大統領は77年運開直前の東海再処理工場に対して、当時の68年の協定に従って待ったをかけてきた。原子力開発の黎明(れいめい)期から核燃料サイクルを原子力政策の基本としてきた日本にとっては衝撃であった。
当時よく使われていた言葉で言えば、東海再処理交渉という「国難」は何とか切り抜けたものの、このように米国のその時々の政策判断で日本の原子力の基本政策が左右されることは困る。日本としては、68年協定の個別許可制度から、包括事前同意方式へと協定を改定しなければならないとの意を強くした。この改定交渉が軌道に乗るのはレーガン政権になってからだが、米国の核不拡散に対する態度は厳しく、行政府部内での異論、議会での核不拡散強硬派議員の抵抗などで交渉は難航し、締結までに6年以上もの時間がかかった。
この交渉は日本にとって、成功であったと評されるが、その原因はどこにあったのだろうか。一番大きかったのは、当時の米ソ冷戦を背景にして、日米間の信頼関係であったと思う。それを象徴するのが、いわゆるロン・ヤス(レーガン・中曽根)関係であった。いまひとつは、日本が自らも世界の核不拡散体制を順守し、かつ国際的にも貢献してきたことが認められたものと思う。
88年の日米原子力協定成立以後、協定は空気のごとく、何人もその存在を感じることさえなく、日米の原子力関係は順風満帆に推移していった。日本の原子力利用は「もんじゅ」とか、六ヶ所再処理工場の遅れなどもあったが、全体としては順調に進み、原子力ルネッサンスと言われるくらいであった。
ところが、この流れに大きな打撃を与えたのが、2011年3月の福島第1原発事故であり、原子力発電は後遺症から少しずつ立ち直りつつあるが、核燃料サイクルの方は見通しがはっきりしない。他方、別名サイクル協定とも呼ばれる日米原子力協定は来たる7月16日に30年の有効期限を迎える。このような状況下で今後、協定はどうなるのか。日米協定の行方については、理論上、次のようなシナリオが考えられる。
一、現行協定の自動延長。ただし、日米いずれか一方の6カ月前の通告で失効される。
一、協定をそのままの形で、20~30年間、延期させる。このためには、両国議会の承認を必要とする。
一、協定を大幅に修正し、核燃料サイクルについては、以前の個別許可制度に戻す。これも議会の承認を必要とする。
一、現行協定の実施取り決めにより、米側が包括事前同意制度を一時的に停止する。
一、無協定状態。
目下の大勢は自動延長の方向であるが、とりあえずこれで良しとしても、不安な要素がないわけではない。事前通告による、一方的失効というダモクレスの剣があるし、また例外的措置とはいえ、包括同意の一方的停止という事態もないわけではない。日本の核燃料サイクルのためには、包括同意制度が必要不可欠であり、手をこまねいていてはいけない。そのためには、何よりも日米間の信頼関係の維持が絶対に必要である。加えて日本の核燃料サイクルを順調に進めることが必要である。
ところが現在、サイクルの二本柱である再処理事業ももたついているし、高速(増殖)炉の目処(めど)も立っておらず、中間措置としてのプルサーマルも期待通りには進んでいない。日本は利用目的のない余剰のプルトニウムは保有しないとの方針だが、核兵器には不適な原子炉級とはいえ、内外に47トンのプルトニウムを抱えており、具体的な消費の目途は立っていない。日本の急務は核燃料サイクルの全体像、将来像を画餅ではなく、合理的な形で示すことであり、これによって良好な日米同盟と合わせて、日米原子力協定を盤石のものにすることができよう。
(えんどう・てつや)






