多様な人材を生かす社会へ
「人口オーナス」時代に対応
外国人労働力の活用検討も
高齢化が進み、亡くなる人が増える一方、生まれてくる子供の数は減っているので、差し引きで人口は減り、15~64歳の生産年齢人口も減り続けている。
国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、2060年の総人口は約8700万人になる。この時、0~14歳、15~64歳、65歳以上の人口比率はおよそ1対5対4になっているという。
結婚や出産を阻む壁を取り除き、子供の数が増えていけば、日本経済の活性化にも、年金や医療などの社会保障制度の維持にもつながる。
ただ今すぐ子供が増え始めたとしても、その子たちが社会の担い手になるには20年ほどの時間がかかる。となると、労働や社会参加の面で従来十分に生かし切れていなかった高齢者や女性の活用を一層進めなければならない。
高齢者を単純に支えられる側と見なす社会を変え、男性の4人に1人、女性の約半数が90歳まで生きる時代に、一律に65歳で引退するような社会はそぐわない。年齢に関係なく、意欲や能力に応じて働けるようにすべきで、できる限り社会を支える側に回るようにしなければならない。
女性の力ももっと生かし、働きながら子育てしやすい環境を整えることが重要である。民間の力を使って保育サービスを増やすとともに、長時間労働を見直し、働き方、働く場所の多様化を進める必要がある。子育てなどでいったん家庭に入った女性が、再び職場で力を発揮できるよう再就職支援を充実させることが大事である。
他方、外国人労働力の活用についても真剣に考える時を迎えている。単純労働力と高度人材の両面について、外国人が暮らす上で必要な生活インフラも踏まえた総合的な対策を検討すべきである。
わが国では戦後長い間、労働力人口の増加率が総人口の増加率よりも高くなる「人口ボーナス」が持続し、経済成長を後押してきたが、1970年代後半以降、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)の低下が続き、今や、高齢者人口の急増と生産年齢人口の減少が財政や経済成長の重荷となる「人口オーナス」の時代が到来しつつある。
少子高齢化の問題に抜本的な対策が打たれなければ、2050年の人口ピラミッドは、65歳以上の高齢者が総人口の4割近くに達し、労働者1人で高齢者1人を支えなければならなくなる。少子高齢化対策は、わが国の成長戦略の中でも最も優先度が高い。
子育て支援により合計特殊出生率を現在の1・4程度から1・8に回復させる目標が掲げられ、加えて教育などを通じた人材力の強化、女性や高齢者の活躍推進など労働力不足を補うさまざまな施策が検討されている。しかしこれらの施策は仮に目標通り実現しても、進行する少子高齢化の影響を部分的に和らげられるのみで、既に深刻となった人口オーナス時代に向かう大きな流れを変えられない。
人口オーナス時代の最も有効な対策と考えられているのが、外国人労働者の受け入れである。「日本再興戦略2016」でも「戦後最大の名目国内総生産(GDP)600兆円」の実現に向け、成長を切り開く人材の育成・確保の一環として、外国人材のより積極的な受け入れ・活用の必要性が要請されている。
魅力的な入国・在留管理制度や生活環境の整備、外国人留学生・海外学生の本邦企業への就職支援強化、グローバル企業での外国人従業員の受け入れなど、戦略的な仕組みを推進すべきである。
各種の世論調査で「移民の受け入れを積極的に進めるべきか」と尋ねると、反対が多数を占める。しかも反対理由の多くが、治安悪化や価値観の対立への懸念など、経済問題以外のものである。
今日、先進国で働いている外国人労働者の多くは、当初から永住・国籍取得を前提としてやってくる「移民」ではない。例えば世界銀行のデータによると、海外に働きに出た労働者からの送金額が各国のGDPに占める比率は、多くの発展途上国で数%から10%超にも及ぶ。これらの送金は母国に残してきた家族に対するものが大半だと考えられ、いずれは家族のいる母国に帰る外国人労働者が多いことを示唆している。
厚生労働省がまとめた昨年10月末時点の外国人雇用の届け出状況によると、日本での外国人労働者数は前年同期比15%増の約91万人となり、07年に届け出が義務化されて以来、過去最高となった。
他の先進国と比較した場合、わが国の労働力人口総数に占める外国人労働者の割合は1・4%程度にすぎない。この数字は15%を超える米国や10%近いドイツなどに比べるとはるかに少ない。今後もさらなる外国人労働者の受け入れ拡大の余地が大きいことを示唆している。
(あきやま・しょうはち)