少年法の成人年齢下げに反対

一般社団法人教育問題国民会議理事長・弁護士 秋山 昭八
秋山 昭八5

「統一性」に合理性なし
指導の機会奪い再犯増加へ

 2015年6月に選挙権年齢を18歳に引き下げる公職選挙法が改正された。これに先立ち、自由民主党政務調査会は、同年4月14日、成年年齢に関する特命委員会を設置して、民法の成年年齢や少年法の適用年齢などについて検討を開始し、9月17日、少年法の適用年齢を18歳未満へと引き下げる等を内容とする提言を取りまとめた。

 これを受けて、法務省は11月2日から「若年者の刑事法制の在り方に関する勉強会」を立ち上げ、少年法の適用年齢引き下げも含め若年者の刑事法制全般についての検討を開始した。

 少年法の成人年齢引き下げには、重大な問題がある。

 第一に、年齢引き下げの理由として挙げられている「国法上の統一性や分かりやすさ」には合理性がない。

 法律における年齢区分は、それぞれの法律の立法目的や保護法益によって定められる。そのことは、公職選挙法が、民法上の行為無能力者にも選挙権を認めていることから明らかである。また、飲酒・喫煙年齢の引き下げについては、健康維持の観点から日本医師会からの強い反対意見がある。

 また、契約に関する行為能力等が問題とされる民法と少年の健全育成と再犯防止を目的とする刑事特別法である少年法とでは、視点が異なって当然である。

 第二に、少年法の成人年齢引き下げは、戦後約70年にわたり有効に機能しているわが国の少年司法制度を大きく後退させることになる。

 現行少年法は、少年年齢を20歳未満と定め、少年の事件については、全件を家庭裁判所に送致し、家庭裁判所調査官および少年鑑別所による科学的な社会調査と資質鑑別を踏まえ、少年にふさわしい処遇を決する手続きを採用している。この現行少年法の手続きは、家庭裁判所や少年院などにおける個別的・教育的な指導と相まって、少年の立ち直りと再犯の防止に有効に機能してきた。

 近年の若者の成熟度について、研究者は一様に、身体的成熟や知的水準は進んでいるが、社会適応能力等の精神面の成熟は遅れていると指摘している。

 これに加えて、非行に走る少年の多くは、虐待やいじめを受けるなど生育環境や資質に大きなハンディを抱えている。つまり、非行に走る少年は、家庭、学校、地域などから適切な成長支援を受けられず、年齢相応の社会性や問題解決能力が身についていない者が多い。

 このような現在のわが国の18、19歳の実情や非行に走る少年の実態に照らしても、今、少年法の成人年齢を引き下げる理由はない。

 第三の問題は、満18歳に成人年齢を引き下げるとは、18、19歳の事件が家庭裁判所への全件送致の対象から除外され刑事裁判の手続きに移行することになり、その結果、再犯のリスクが高まることである。

 14年に検察庁が取り扱った道路交通事件を含む少年被疑者のうち47%が18、19歳であった。そのため少年法の成人年齢が18歳に引き下げられると、現在検察庁に送致されている少年被疑者の約半分が家庭裁判所の手続きから排除され、刑事事件手続で処理されることになる。

 同年の検察統計年報によると、検察庁の被疑者に対する処分の内訳は、起訴猶予65%、罰金・科料27%、公判請求8%である。

 そのため、少年法の成人年齢が18歳に引き下げられると、18、19歳の事件の多くは自動車事故等の軽微なものであるから、被疑者の9割以上が、起訴猶予か罰金を払うことで手続き終了となる。つまり、非行を犯した18、19歳が少年の内面に迫る家裁調査官や少年鑑別所が行っている教育的な働き掛け、さらには少年院や保護司・保護観察官が行っている教育・指導を受けられなくなる。これでは、若者の立ち直りの機会は大きく減少し、再犯のリスクが高まることは必至である。

 現在、各種世論調査の結果では、少年法適用年齢引き下げ賛成が大多数である。これは、市民の中に「少年犯罪が増加、凶悪化している」という認識と、「少年法は甘い」という誤ったイメージが浸透していることが大きな理由である。

 このような誤解を正し、①少年犯罪は凶悪犯を含めて減少し続けていること②少年事件の手続きや矯正処遇が決して「甘い」ものではないこと③マスコミで大きく取り上げられるような16歳以上の重大事件は、現在ほぼ全て刑事裁判手続きで処分が決められていること④年齢引き下げは、軽微な非行ではあるが、資質や生育環境に問題を抱え再犯の可能性がある18、19歳に対する少年法による指導・支援の機会を奪うもので、再犯が増加すること―を社会全体に正しく理解してもらう広報活動が極めて重要である。

(あきやま・しょうはち)