グローバリズムの後退

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

内向き志向強める米国
保護主義は世界に悪影響

 グローバル化に対する風当たりが欧米先進国を中心に強まっている。自由貿易や移民の受け入れに反対する政党や政治家が、生活に不満を抱く人々の間で一定の支持を受けるようになった。

 このうねりを放置するのは危険である。保護主義的な政策や人の移動を不当に抑える動きは世界経済を下押しし、人々の暮らしをかえって悪化させる危険がある。

 欧州でも似た動きが目立ち、フランスの極右政党、国民戦線は反グローバル化やイスラム移民の排斥を訴え、支持層を広げ、ドイツや英国、デンマークなどでも反移民政党が台頭している。

 こうした潮流の背景には、2008年に始まった金融危機以来の経済停滞で、中間層の雇用や所得が低迷していることがある。それに対する人々の不満につけ込み、安直だが分かりやすい政策で支持を得ようとする政治の動きが蔓延(まんえん)し始めたと言える。

 その流れの中で、イギリスの欧州連合(EU)脱退の国民投票が過半数を制した。

 グローバルなモノ・サービスや人の動きを安易に押さえ込めば、むしろ人々の暮らしに悪影響が出る恐れがある。

 自由貿易によって、人々は食料品や衣服などを安く手に入れることができる。競争力のある製品やサービスの輸出拡大で雇用を増やすこともできる。移民もうまく社会に溶け込めれば経済や社会に活力をもたらす。

 自国の市場を高関税などで閉じれば、相手方も同様の動きに出るのは必至で、その結末は1930年代の関税引き上げ競争や、経済ブロック化による世界恐慌の深刻化に見られたように明らかである。

 各国政府は経済の成長力を高め、雇用や所得環境を改善する政策に全力を挙げる必要がある。欧米経済は金融危機からほぼ脱したものの、長期失業や実質所得の低迷といった問題を抱えており、欧州のユーロ圏の失業率はなお10%台と高止まっている。

 対応策は国によって異なろうが、需要創出につながるインフラ投資や労働市場改革などで経済が長期停滞に陥るのを防がなければならない。

 米国大統領選の結果は、トランプ氏が環太平洋連携協定(TPP)に反対しており、米国は内向き志向を強め、グローバリズムの後退を招きかねない。

 トランプ氏は、通商でも「雇用がメキシコや中国など他国の利益追求のため失われている」と論じている。

 また、自由貿易が米の雇用を奪っていると主張し、グローバル化を牽引(けんいん)するかつての超大国の指導者像ではなく、国内に傾斜する姿勢が目立つ。

 TPPはオバマ政権が外交の軸足をアジア太平洋地域に移す「リバランス(再均衡)政策」の要で、中国の強引な海洋進出を抑える一手だった。

 米国市場に壁を設けて雇用を維持・拡大する考え方は、自由貿易を尊重してきた共和党の従来の姿勢と相いれない。

 トランプ氏は、安全保障政策でも同盟国との絆を重視する米国の伝統的な立場と距離を置く姿勢を取り、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国や日本、韓国に、防衛義務の対価としての負担増加を求める考えを示している。

 トランプ氏の通商・安保政策は保護主義、孤立主義的な色彩が強く、実施されれば世界への悪影響は甚大である。

 世界の安定や繁栄にも責任を負っていることを忘れてはならない。

 わが国政府は9月27日に「働き方改革実現会議」で、外国人労働者の受け入れを検討することとし、介護や育児、建設など人手不足の分野で外国人労働者を受け入れるため、法整備を目指し、単純労働の外国人受け入れに事実上、門戸を開くことにしている。

 現在、外国人材の受け入れをめぐっては、事実上研究者や経営者といった「高度専門人材」と「技能実習制度」を使った実習生、経済連携協定(EPA)を通じた受け入れに限っているが、国内の生産年齢人口は13年に8000万人を割り、足元では7700万人まで減少し、特に介護など潜在需要の高い分野で人手不足が深刻である。

 政府は1990年の出入国管理法改正で、3世までの日系人には日本での在留資格を例外的に与えており、そのため、ペルーやブラジルなど主に中南米からの日系人は、単純労働も含むあらゆる職種に就労することが可能となっている。

 21カ国が参加するアジア太平洋経済協力会議は、11月20日、あらゆる保護主義に対抗する旨の首脳宣言を採択した。

(あきやま・しょうはち)