地震から半年、復興途上の熊本

拓殖大学地方政治行政研究所附属防災教育研究センター副センター長 濱口 和久

濱口 和久防災体制の脆さを露呈
有事に問われる首長の指導力

 熊本地震が起きてから半年が経った10月14日、私は熊本空港に降り立ち、16日まで熊本に滞在した。熊本空港は地震によって、空港ビルの天井の一部が崩れるなどの被害を受けた。いまだに壁にヒビが入っている箇所もあり、改修工事が行われている。

 熊本地震では震度7の揺れを2度記録し、震度1以上の地震が4887回(10月14日時点)を数える。震災関連死を含めた死者数は110人。熊本県の試算では、被害額は3兆7850億円になるという。

 熊本のシンボルである熊本城も、天守や重要文化財の櫓(やぐら)や石垣に大きな被害が出た。熊本城総合事務所によると、熊本城の被害額は634億円。熊本県出身の私は、変わり果てた熊本城の姿にすごいショックを受けている。特に天守の姿は、見るに堪えない状態だ。

 熊本城が地震によって被害を受けたのは、今回だけではない。127年前の明治22(1889)年7月28日に起きたマグニチュード6・3(震度不明)の「明治の熊本地震」の時にも、石垣などに大きな被害が出ている。

 熊本城の完全修復には、崩れ落ちた石や木材を再利用して進めなければならず、20年以上かかるともいわれている。そのなかでも天守は城のシンボルであり、まずは天守の再建を願うばかりだ。

 熊本地震では住宅も大きな被害を受けた。被害数は約17万棟。特に被害が大きかった益城町を車で見て回ったが、全壊または半壊の住宅が半年前の状態で放置されている地区が数多くあった。

 住宅の解体撤去作業が進まない背景には、業者の不足もさることながら、多くの住民が公費による解体撤去を希望しているからだ。益城町を含めた熊本県内の解体撤去の進捗(しんちょく)率は14・6%にとどまっている(熊本日日新聞10月15日付)。解体撤去が完了するのは来年度末になる見通しだ。

 仮設住宅(みなし仮設住宅も含む)の入居期間は基本的には約2年間であり、このままの解体撤去ペースで進めば、新しい住宅が完成する前に、仮設住宅を退去しなければならない被災住民もいる。そうなれば、新たに住む場所を探す必要に迫られ、余計な経済的負担を強いることにもなる。自治体は入居期間の延長も含め、柔軟な対応が求められるだろう。

 さらに被災住民の中には、住宅ローンの二重ローン問題で頭を悩ましている人もいるが、この問題の解決方法の一つとして「債務整理ガイドライン」という制度がある。この制度は、債務整理をすれば、不動産や有価証券などあらゆる資産を手放す必要があるが、生活再建資金として手元に最大500万円を残した上で、新たな住宅ローンを組むことができる。この制度を利用しても金融機関の信用情報(ブラックリスト)に載ることはない。

 ただし、この制度を利用するには条件がある。ガイドラインの適用対象は、年収730万円以下、または住居費が年収の40%以上などとされている。しかし、あくまでも目安であり、金融機関との交渉次第だ。東日本大震災では、この制度の存在があまり知られていかったため申請件数は少なかったが、熊本地震では474件の申請(10月14日時点)がある。

 熊本地震では幾つかの自治体の庁舎が大きな被害を受け、災害時の司令塔となる庁舎が立ち入り禁止や使用停止となったことを多くのマスコミが伝えていた。

 それに対して、自治体トップの首長や自治体で働く職員の実態については、あまり報道されてこなかったが、産経新聞(9月17日付)に次のようなエピソードが掲載された。

 4月24日、地震で庁舎が使用停止となったある町の仮庁舎を訪ねると、町長と総務課長が2人でぽつんと座っていた。「災害対策本部なんてやったことない。2人では何もできない。他の職員は避難所にいる……」。

 このエピソードを読んだ時、自治体の防災体制の脆(もろ)さを改めて痛感した。「災害対策本部なんてやったことがない」という町長の発言は、あまりにも無責任な態度そのものではないだろうか。「平和時のリーダー」と「有事の時のリーダー」がいるとすれば、首長は「有事のリーダー」としての資質が求められる職業であり、単なる名誉職のポストではないはずだ。

 災害対応は訓練やマニュアル通りにいかない場合が多い。災害対応は想定外の連続であり、100回災害が起きれば、100パターンの対応力が求められるという認識を、首長は持つべきだろう。

 職員についても、避難所生活をしているからといって役所に出勤しないのは言語道断である。東日本大震災では、夕方5時になると、残業手当が付かないという理由で、職員は帰宅し、夜間は自衛隊、警察、消防だけが庁舎に残るという自治体があり、批判を浴びた。

 最後に、熊本地震は、地震学者でさえ驚くほどの大きな被害となったが、熊本よりも人口が多い大都市での地震や、首都直下地震、南海トラフ地震が起きた場合には、さらに甚大な被害が出ることが予想されている。防災対策は「自助」が基本であるが、災害の規模が大きくなればなるほど、「公助」の部分を担う首長のリーダーシップや職員の行動力が問われてくる。

(はまぐち・かずひさ)