労働人口減と移民受け入れ
喫緊の課題は少子化
現実を直視し真剣な議論を
日本の喫緊(きっきん)の課題は少子化である。
日本は先進国の中で最も早く人口ボーナス期が終わり、人口オーナス期に突入した。就業人口が年間30万人ずつ減っていくことは、すなわち、税金を払う人が減っていくということである。
世界最大の財政債務を抱えているのに、税収は減っていく。日本を揺るがす財政問題の震源には、少子化問題がある。
約10年後には、労働人口が500~700万人減少するといわれ、今後毎年20万人ずつ外国人を受け入れても対応はできないという現実を直視すべきである。このことは日本が再び高度成長するためでなく、「持続可能」な社会になるためには、人を受け入れる必要がある。
安倍政権は「移民政策はしない」と言い、建築業などに業種を絞り、期間も限定する案を検討しているようであるが、五輪開催などを理由に場当たり的にやっても仕方ない。国全体で、どう外国人を受け入れるかという議論と体制づくりをしなくてはならない。
今後需要が増加する介護と看護に従事する人材確保も必要である。
2025年に、介護福祉士は50万人も不足するとみられており、看護師は、少なくとも10万人は不足するといわれている。現在、フィリピン、インドネシアなどから候補者を受け入れているが、日本人と同じ国家試験を受けなければならず、最大の障壁になっている。二国間で、相互の資格を認め合うなど、抜本的な取り組みをしなくてはならない。
日本社会の移民アレルギーは、外国人が治安を悪くするという議論は疑問である。日本で暮らす外国人の多くは、退去させられぬようむしろ法律を順守している。日本人との摩擦が生まれたら率直なコミュニケーションで解決すべきで、欧州の移民受け入れ国も入国後の「統合政策」に力を入れている。
ドイツは1999年、血統主義の国籍法に出生地主義を加味するよう修正し、いかにして外国人を受け入れるかに心を砕いている。一部の排斥運動だけを見てはならない。
単純労働者を受け入れるために、現在は、安易な労働力調達に利用されることもある技能実習制度を改善し、滞在期間の上限を延長し、定住も視野に入れるべきである。人材が育った途端に帰ってしまうことがなくなり、企業側にもメリットがある。経済界は目先の労働力調達だけを考えるのではなく、移民受け入れについて真剣に取り組むべきである。
かつて、30万人いたブラジル人のうち、4割が帰国してしまった。金融危機後に仕事が減ったことも一因だが、彼らが日本に魅力を感じなくなり帰国したという事実を深刻にとらえなくてはならない。
人口減は、国の経済を担う現役の働き手の減少に直結する。必然的にそれは国内総需要の伸び悩みをもたらすに違いない。他方で、高齢者の数が差し当たりは逆に増加基調で推移する公算がすこぶる大きい。財貨の生産部門で活躍する人口数はさらなる減少を免れにくいことになろう。
人口減が引き起こす国民経済成長に対しての阻害圧力という悪影響が、少しずつながら表面化しつつある現実を軽視するのは大変な怠慢で、このままでは悔いを後世に残すことになる。
この国の人口が減少時代に入ったことは、同時に、この国の経済が衰退期に移行する恐れのあることを暗示する。このままで事態が進行するなら、国民経済は全体として遠からずジリ貧状態に移り、国の人口が減少していくことは、国内市場そのものの縮小に直結する。
国の経済は、昭和36年度から当時の池田勇人政権が果敢に推進した「高度経済成長政策」とは対照的に、活力を失っていく心配が大きい。池田勇人から佐藤栄作政権にかけての約10年間に、日本の国内総生産(GDP)は2倍を超えた。国民1人当たりでは世界ランキングはまださほどではなかったものの、GDP総額では米国に次いで世界第2位、国民の少なからぬ人々が日本経済の先行きに希望を抱いた。それとは反対の方向に日本の経済社会は動き始めていると言えよう。
平成28年の成人の日の該当者が約130万人にすぎなかったことは、この国の人口減を端的に語り掛けるのと併せて、国民経済の発展に重大な阻害要因が近づいていることを明らかに示唆している。
現状のまま推移するなら、国内市場は日用消費財市場の縮小は必至で、立地条件の良くない地域を中心に消費財関係の事業は、整理、脱落するものが増えよう。
(あきやま・しょうはち)






