東日本、熊本と続く大地震

尾関 通允経済ジャーナリスト 尾関 通允

予知まだ不可能な段階

気になる南関東今後の備え

 ごく当たり前のことだが、地震にも個性がある。例えば震度、人体にはそれと感じない無感地震から恐るべき被害をもたらす烈震あるいは激震など、震源も地下数十㌔㍍程度のもの、東北三陸をときに襲う大地震のように大津波を伴う例その他。それにしても、4月14日夜に熊本県益城町で発生した地震には、珍しいことが目につく。最初の地震が震度7(マグニチュード6・5)だったのに対し、16日未明には、それより強いマグニチュード7・3の地震が熊本と大分の両県を襲っている。発表では後が本震と言うが、どちらが本震なのか筆者には分かりかねる。

 加えて、いわゆる余震が長期に及んでいる。気象庁は益城町での発生後に「1週間程度は余震に注意を」と呼びかけたが、余震はその後も延々と続く。(ついでだが、余震というよりも関連震というべきか)。

 群発地震に関しては、筆者の手元の資料には、伊東市(静岡県)の例がある。戦前期の1930年のこと、合計4800回を超える群発地震(多い日には700回近く)が続いたあと、11月26日に大地震が発生した―と出ている。熊本地震とは、様相が違う。

 地震は地下深くで発生する地盤破壊による。したがって、どこでどんな地盤破壊が生じているか、それがどの程度に進んでいるか―などを、人間の目で直接に観察することはもちろん、近代技術による精密機械をもってしてもまだ不可能事である。もっとも、地震発生の歴史(=どこでどの程度の規模の地震が発生しているかなど)や地域によって発生している地盤の隆起現象や逆に沈下現象などの観察を組み合わせて、次の可能性を探ること、つまり統計的分析の段階には至っている。

 ところで、いわゆる関東大震災の震央つまり震源がどこだったかを、ご存じだろうか。以前に当欄でも触れたが、ある地震研究家によると相模湾大磯沖だったとのこと。筆者自身は、犠牲者が多かった東京の下町かと想定していたが、とんでもない見当違いだった。ただし、東京地方にも震度5以上の地震が多発していることは事実である。

 例えば、赤穂浪士の吉良邸討ち入りの翌年(元禄16年=1703年)には元禄関東地震、安政2年(1855年)には安政江戸地震、明治期に入っても17年(1884年)など震度5を超える地震が7回発生しているし、1923年(大正12年)の関東地震では震央は大磯沖とはいうものの東京でも震度6(マグニチュード7・9)だったとの記録が残っている。

 建築技術が今日ほど進んではいなかったことも、多分に響いていたし、公共機関の地震対応策(被災者救済ほか)が昨今に比べてはるかに遅れていたことなどもあったからだろう犠牲者の数は極めて多かった。死者9万9千人余、行方不明者4万3千人余と、手元の資料には伝わっている。また、房総半島南部や神奈川県の一部に土地の隆起現象がみられたともいう。

 昨今、事情通によると、房総半島や三浦半島の太平洋に突き出た部分に、土地の隆起現象がみられるともいう。事実だとすれば、無気味かつ心配だとしなければならない。

 話は変わるが、日本にはかつて「大地震が近いと鯰(なまず)が異常な動きをする」とする説があったが、これには東大名誉教授だった末広恭雄氏(故人)が実験的に鯰の動きを観察し、地震に先立って変わった動きをすることはないと確認したとのエピソードが残っている。

 これまで述べてきたことから言い得るのは、「現代科学の力をもってしても、地震発生の時期や場所の的確な予測はまだ不可能。可能なのは、どこで、いつごろ、どの程度の規模の地震が発生する確率がいくらぐらいあるか」の域を出ない。ただし、時日の経過とともにその確率は高くなっていくだろう。

 地震に関連して、もう一つ警戒すべきことがある。地盤液状化現象の発生がそれで、5年余り前の東日本大震災の際、関東地方の一部でも発生している。私事にわたるが、三木武夫政権の当時、首都圏整備審議会が首相の諮問を受けて「首都圏整備はいかにあるべきか」を産業立地・緑地保存・道路建設の在り方・防災など各分野の専門家の参加の下に討論・分析する機会があり、筆者が計画部会長として取りまとめを担当することがあった。地盤液状化現象の発生が引き起こす恐れとその害についての認識は、その席でのこと。相似た弊害は地形と土質によって起こり得る土砂災害がある。

 「巨大地震の場合、地震による破壊に加え、津波による水攻め、時間帯のいかんでは火攻めの、三重苦が見舞うことになりかねない。地盤液状化がときに加わる」との専門家の説明には、強い迫力があった。

 それだけに、羽田空港の滑走路その他の地盤液状化を防ぐための工事を引き受けた業者たちが“手抜き工事”をしていたとは。腹立たしい以前に、あきれかえるばかり。今日、列島各地に高層建築が林立している。果たして大地震にどこまで耐え得るか、企業倫理低下のきらいを否めぬだけに、懸念は強い。

(おぜき・みちのぶ)