健やかな腸でストレス対策
免疫力を高める生活術
保温、深呼吸、発酵食品など
昨今、増え続けるストレスによって心身の免疫力を低下させて「生活習慣病」をはじめ諸々の疾患の要因になっていることが指摘されている。つまり、心身に負担がかかると副腎からアドレナリンが分泌されて血管が収縮し血圧が上昇し、一時的に抵抗力が増すが長く続くと次第に抵抗力が衰え、その結果免疫力を低下させる。
そのストレスは、特に身体の弱い部分に負担がかかり疾患を生じさせるのである。
そこで、その「免疫力」を高めるために「腸」の働きが、近年注目されている。
生物の系統発生を辿(たど)れば、すべて腸から派生し、脳は腸によって造られ、それ故に脳と腸とは深く結びついているのである。
古くより、納得することを「腑(ふ)に落ちる」と表現し、「腑」とは腸のことで、他にも「はらを割って話す」とか「はらを据(す)える」の表現は、いずれも、「はら」とは腸のことである。他にも、人生訓の書『菜根譚』に“此の処若(も)し当(あ)たるに冷腸を以てし…”(前集一三五)(この点について、冷静な心で当り)と。つまり「冷腸」とは“冷静な心”ということ。
また、“慎んで軽々しく剛腸を動かすことなかれ”(前集・一四三)(慎んで軽々しくその強い信念を変えてはならない)と。「剛腸」とは“ものに屈しない強い信念”を意味している。
このように、私たちの知・情・意を司るものは、それぞれ、脳(頭部)・心臓(胸部)・腸(腹部)と関わり、なかでも「腸」は意思や信念と深く結びついているのである。
従って、腸の働きが元気になれば意欲が高まり、自ずと生命力が湧き免疫力の向上につながるのである。
そこで、腸の働きを元気にする生活術について具体的に述べてみよう。
・体温を上げること。(手、足そして腸を温める)体温が上がれば腸の働きが活発になり、免疫機能が増強される。体温を1度上げると免疫機能が30%上昇するという。
・1日に数回深呼吸をすること。深呼吸で体に酸素を満し、体に新鮮な気を取り入れる。
・良く咀嚼すること。よく噛んで活性酸素の発生を抑えて腸を若返らせる(噛まずに食べると消化吸収が衰えて免疫力が低下する)。
・発酵食品(味噌・納豆など)を摂る。これらは腸内細菌を増し、免疫力を高める。
・早起きして、日光を浴びること(朝日を浴びて意欲を高める物質のセロトニンとともにメラトニンという睡眠を促す物質で睡眠を充分に保つことができる)。
・朝食は質の良いものを摂る(豆腐の味噌汁、玄米粥、野菜など)。これらは腸の活動を促す。
・睡眠を7~8時間確保すること。(睡眠不足は腸の活動を停滞させる)
・排泄は吸収を促進する。朝しっかりと排便をすることで腸の働きを活発にする。
・「あるがまま」に生きること(「あるがまま」の自分で生きれば、ストレスを解消し腸が元気になり免疫力を高める)。
・「ほどほど」に生きること(頑張り過ぎると交感神経が優位になりストレス状態に陥り、その影響が腸に「過敏性腸症候群」となって現れる。従って、ゆっくりとリラックスすることが大切である)。
これらの生活術が「腸の免疫力」を高め、心身ともに健やかな生活を支えてくれるのである。免疫細胞の70%が腸に宿っている事実を考えれば、いかに「腸」を元気にすることが重要であるか、改めて痛感せずにはいられないのである。
加えて、免疫力は加齢とともに低下すること(20歳代でピークが40歳代で半減し、70歳代では更に減少する)を考慮するにつけ、この生活術の実践がいま問われていると思う。
さて、「腸」に関するこれまでの研究ではロシアの病理学者、エリ・メチニコスは“寿命の長さと腸内細菌群との間には疑うべからざる関係がある”として“腸内の腐敗は寿命を短縮する”(『不老長寿論』)と述べている。
後にドイツのエールリッヒとともにノーベル生理学・医学賞を受けている。(1908年)
最近では、コロンビア大学の神経胃腸学のマイケル・ガーション教授が“腸は第二の脳である”(1996年)と述べて、腸と脳の働き「腸脳力」の重要性を特に重視している。
これまでのことを要約すれば〝養生の秘けつは、腸の力を養うことであり、且つ腸は免疫力の要(かなめ)である。〟従って、これらのことによって真に「長寿力」(腸寿力)が保たれるのではなかろうか。
おわりに、『菜根譚』の言葉を述べてみよう。
“藜口(れいこう)莧腸(けんちょう)の者は、氷清(ひよせい)玉潔(ぎょくけつ)多く”(前集・十一)と。
即ち、「藜(あかざ)や莧(ぬめりひゆ)のような粗食に甘んじている人は、清く潔白な心の人が多い」というのである。
いま、改めて“剛腸を動かすことなかれ”を心に留めて、日々豊かに過ごしたいと切に念じている。
(ねもと・かずお)