国力に見合う防衛力整備を
他国依存の発想変えよ
流動化する世界情勢に対応
北朝鮮による弾道弾発射、シリア内の紛争、IS(過激派組織「イスラム国」)のテロ活動の活発化など世界の軍事情勢は相変わらず、不安定な情勢が続いている。我が国周辺においては、中国の軍事膨張、南シナ海の一方的な現状変更が加わり、世界的な注目を浴びている。
この様な流動的な様相の中、我が国の安全保障関連の政策は、防衛予算の滞りを除き、ここ2年着実に進んだと考えている。平成25年12月に国家安全保障戦略が閣議決定され、同時に防衛計画の新大綱が決定された。そして、昨年4月には日米防衛協力の新指針が合意されるとともに、9月には懸案の平和安全法制が制定され、防衛関連法制は一層の堅確性を達成した。真に結構な事と考えている。
戦後70年、自衛隊(当時警察予備隊)発足より65年、防衛問題は、戦後独特の反戦・左翼的症候群のなか、国内政治の大きな争点として位置づけられ、あるいは政争の焦点として厳しい試練を受けつつ成熟してきた。即ち、大きく変動する世界情勢の中、国の防衛に関する長い国民的関心の延長上に現在の防衛政策の姿があると言える。今回は、国家戦略、防衛力のあり方といった国の基本理念に疑義はないものの、思考過程の底流に流れる考え方について若干の所信を披露したい。
先ず感ずるのは、長年防衛力の大きさ、サイズを定めてきた「大綱別表」の問題である。言わずもがな大綱別表は、人員・部隊数・装備定数を定めたものであり、これ以上の透明性はないと言ってよいほど、防衛力をオープンにしたものである。この数値すなわち防衛力のサイズは、日本の国力、周辺国の軍事力等を勘案したとき、小さすぎるのではないかというのが率直な認識である。
防衛白書で例年明らかにされているように、我が国の防衛力は、周辺国に比し小ぶりである。これは昭和51年当時確立された「基盤的防衛力」構想にさかのぼり、冷戦構造の厳しい中、当時の日本として常備する軍事力の目標を掲げ、軍事力の空白が不安定要因となることを避ける構想から出発したものである。
その後、冷戦構造の崩壊、自衛隊の任務の多様化・国際化等の変遷、我が国周辺における不安定要因の顕在化等の経緯を経て、今回の新大綱別表につながるわけだが、防衛力のサイズ自体には大きな変化はない。あえて言うならば、ソ連崩壊後の「平和の配当」として、10%程度の縮小を行ったのが目立つ程度である。
一方、日米防衛協力の指針、これに伴う共同作戦計画作業の面からみると、基本的に大量の米軍来援の下に計画は成り立っており、誠に心強いと言える。半面、国際情勢は極めて流動的なことは周知の事実。一国の存立を左右する国家防衛を、如何に「同盟」「国際協調」重視の時代とはいえ、他国に過剰な依存をし続けてよいのかという疑問が拭えない。
我が国の防衛力は、サイズのみならず、多くの制約の下に成り立っている。核兵器、原子力推進艦艇、長距離ミサイル、空母・爆撃機等策源地攻撃能力といった装備上の諸制約のほか、武器使用基準、武器技術の移転など他国に比し、変わった特徴を持つ軍事力である。その経緯を縷々述べるつもりはないが、基本的には、再び軍事国家としての道は歩まないとする国民的合意と、これに同意する外国の思惑が合致してきたからと考えてよい。
これが底流であり、歴史上かつてなかった敗戦・国家荒廃という事態を踏まえると然るべきことであると言えるだろう。そして、軍事力の再興は前述の如く、国内政治の焦点として争われ、現在がある。ここで筆者が訴えたいのは、70年という歴史上かなりの期間にわたって我が国がたどってきた平和国家としての歩み・実績を踏まえ、国の防衛を、我が国の将来の目標像という大きな捉え方の中で、サイズ、諸制約を真剣に見直す必要があるのではないかということである。
1990年当時の在沖米海兵隊司令官スタックポール少将が、「在日米軍の存在価値には、日本軍事力の強大化を防ぐ『瓶の蓋』としての意味がある」旨発言し、物議を醸した。この様な見方は、現在どうであるか不明だが、防衛協力の指針に示された日米双方の役割分担をみると、依然として主流として流れていることは明確である。それほど、我が国の平和国家としての歩みは定着している。
逆に、武力行使に係る厳格な自己規制が、竹島・尖閣といった問題を引き起こす弱みとなっているのかも知れない。すなわち、国民的な平和国家としてのコンセンサスと防衛力構成の底流となっている「瓶の蓋」的発想には大きな乖離ができている。これらの要素を踏まえるとき、平和国家として歩んできた70年の歩みを自信に、我が国の長期にわたる将来像を見据えて防衛力の在り方を根本的に見直す時期が確実に来ているのではないだろうか。
過去の経緯は有るものの、「過大に」他国に依存し続けるのは、どう見ても不自然である。日米同盟は、今後とも一層の緊密化が必要なことは論を待たないが、戦力比率、機能的分担の内容等国力国情に応じた努力という観点から検討し、より堅確化を図る観点から建設的に捉えるべきであろう。我が国周辺の軍事情勢の急激な変化を見る昨今、益々その必要性を痛感する。
(すぎやま・しげる)