平和に貢献する安保法成立

ペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学法学部教授 ペマ・ギャルポ

野党とマスコミに失望

反対デモは中国大使館前へ

 平和安全関連の法案が国会で成立したことで、一安心した。与野党の議員の皆様、閣僚の皆様が眠気と戦って頑張って来られたことに対し敬意を表したい。安倍首相におかれましては有言実行の姿勢を貫き、日本の安全保障のみならず、アジアの平和と繁栄のために日本が貢献できる環境がこれで少し良くなったと思うので、今後さらに建設的、積極的に平和外交のため頑張っていただきたい。

 私は9月18日、ある仕事のため議員会館に行き、途中プラカードを持った法案反対派の人々の、彼らなりに必死の行動が場違いの所で行われているように思った。「戦争するな」というスローガンは私にも理解できないものではない。だが私は、彼らが本当に戦争を回避したいのであれば、デモは中国大使館の前で行うべきではないかと思った。

 9月3日の北京における抗日勝利70周年の軍事大パレード、9月3日チベットにおける自治区成立65周年の軍事大パレード。これらのパレードで最新式の兵器をこれみよがしに披露していたのは何を意味しているのか、あの反対集会の人々は考えたこともあるのか大きな疑問を感じた。この北京とラサにおける軍事パレードの前後から、警察、武装警察、公安当局によって一般市民の言動は厳しく監視され、当日は当局によって選定された人々のみが式典に参加することを許されていた。

 日本は少なくともあのような民主主義が保障されている。ルールや討論を無視して行動する人々は中国であれば当局によって連行される。場合によっては二度と娑婆に出ることはないような体制こそが独裁国家の本質であり、今、日本ではむしろ民主主義の制度を濫用し、自らの正当な権利を放棄しているようにも私には見える。

 また、同時に日本で平和主義者たちが平和安全法制を「戦争法」と決め付け、国会でも野党議員が自分を売り込むための様々なパフォーマンスをしている間、中国は着実に南シナ海での軍事基地の強化を拡大していた。

 このたびの法案に対する野党の方々とメディアの基本姿勢にも失望した。なぜならメディアは法案に対する公正な報道に欠けていたからである。例えば反対デモや集会が賛成よりも何倍多くとも、賛成の集会やシンポジウムがあったにも拘わらず、殆ど無視されていた。新聞に登場する言論人も、メディアの都合に合う人物だけに焦点が合い、少数の意見と真剣な議論をする環境をなしていなかったと思うのは私だけではないはずである。

 野党の方々は建設的な代案を示すこともなく、議事を妨害するための物理的な抵抗に転じ、ただ法案が通過するのを数時間、数日遅らせることだけに専念しているように見えた。これでは自ら民主主義のルールに従っての健全な議論を妨害し、放棄しただけであって、自分たちの利に合わないことには強行採決と言って批判する資格はないように思った。私は2日間テレビ中継を深夜まで見守っていた。

 野党のひとり山本太郎氏は採決の際、喪服姿で合掌し、しかも私の見間違えでなければ数珠まで持って「民主主義が死んだ」と言っていた。私は彼が政治に関心を持ち、政界に出た頃は機会あるごとに期待感を抱き、彼の言論に耳を傾けた。それだけに、その後の彼のパフォーマンス的な言動を見て、役者としては優秀かもしれないが、パフォーマンスの場を間違えているように思った。民主主義を殺したのは誰か、自分たちの民主主義を守るためのルールを無視しているのは誰か、山本氏たちは与党に人差し指で指さすとき、自分たちには三本の指が向いていることを忘れてはならない。

 9月19日未明の参議院での採決後のNHKの田中記者による与野党のコメントの求め方も、その後のNHKの論説級の人々のまとめ方も完全に偏ったものであったと感じた。この法案が通過したことによってアジアの平和と安定にいかに寄与できるかという観点からの視点が全く見られず、問題点ばかりを指摘していた。実際私が法案通過後のアジアの反応を見たところ、NHKを含む日本の主要メディアと似た論評をしているのは中国くらいであったように思う。

 1990年代初頭フィリピンは世論と議会によってアメリカの基地を追い出した結果、中国がフィリピン固有の領土領海を侵し、ある漁船の船長の話では、最近中国から不法侵入してくる船の数と頻度が多くなり、今では数え切れなくなったと嘆き、政府の対応に批判をしていた。そのフィリピンは今、再びアメリカの援助と介入を求めるようになっている。アメリカも待っていたようにフィリピンを去ったことでアジアの平和と安定が崩れたことを再認識し、自国の利益のためにもアジアの重要性を痛感し、再びフィリピン政府との間で防衛協定に合意した。

 日本で今回の法案が成立したことで日本の平和外交の後ろ盾としてなり、より外交を行いやすくなったと思う。安倍政権はこれらの法律を有効に活用し、今月末国連でも積極的に自信を持って平和外交に臨み、日本の役割と存在感を示して欲しい。