政治化する露中海軍合同演習
クリミア併合が契機に
南シナ海での実施望む中国
5月の対独戦勝記念日に夫人同伴で訪露した習近平主席と彼らを迎えたプーチン大統領は首脳会談を行い、「戦略的パートナーシップ」を強調した長文の共同声明を発表した。だが、現実は共通の利害が一致する場合には協力するレベルのようである。ただ、緊密さの対外アピールだけは積極的に実行している。ここでは、海軍合同演習を見てみたい。
8月、露中海軍合同演習「海上連携―2015(Ⅱ)」が、日本海海域で実施された。「海上連携」と称した演習は2012年から始まり、今回で5回目となる。
2011年8月、人民解放軍総参謀長が訪露し、ロシア軍参謀総長と会談、翌春4月下旬、黄海で海軍合同演習を実施するとの合意により始まった。
2011年、中国のGDP(国内総生産)はロシアの4倍を超えた。一方、中国の急激な発展を受け、ロシアでは2009年頃から中国脅威論文がメディアで見られはじめていた。
中国は好調な経済成長のもと軍事費も二桁の増額に努め、「科技強軍」のもと軍事力増強に邁進していた。だが、天安門事件による経済制裁を受け、兵器購入はソ連時代以来ロシアに依存している。2007年頃をピークにロシアからの兵器輸入は減少しているが、装備の多くはロシア製で、部隊運用においてロシアから学ぶ必要があった。特に大陸国の海軍にとってロシア海軍は先達である。
これらを背景に、ロシアは渋々合同演習に応じたのである。「海上連携―2012」(2012年4月22日~29日)の演習海域は青島付近の黄海、中国の参加艦艇は公式上16隻。駆逐艦4隻、フリゲート艦5隻、総合補給艦、病院船各1隻、ミサイル艇・その他(小艦船で明示なし)、さらに2隻の潜水艦、対潜ヘリ2機、J8・J9戦闘機など大規模な編成であった。これに対しロシアは7隻。巡洋艦(旗艦)、対潜駆逐艦3隻、補給給油艦1隻、海洋曳船2隻などであった。うち対潜駆逐艦、補給給油艦、海洋曳船の3隻はアデン湾で海賊対処任務を終えて戻ってくる途中での参加で、数合わせの感が強い。
中国は北海艦隊から旗艦を含め5隻、東海艦隊から6隻を選び、主として対潜能力を習得させる企図であった。
「海上連携―2013」(7月5日~12日)は、ロシアのピョートル大帝湾及びウラジオストク港湾海域で行われた。ロシア側は艦艇6隻、ヘリ数機、中国側は7隻であった。中国側は北海艦隊から5隻、南海艦隊から2隻で、北海艦隊重視と南海艦隊(駆逐艦2隻)への運用普及が特徴であった。
「海上連携―2014」(5月20日~26日)は、東シナ海北部で行われた。ロシア側6隻、中国側7隻、ヘリ数機、戦闘機2機とほぼ前回同様の規模である。本演習で、中国駆逐艦がロシア艦隊支隊の指揮下で初めて行動した。中国側は北海艦隊2隻、東海艦隊3隻、南海艦隊1隻と北海艦隊を重視しつつ、他の2個艦隊にも平均して学習させる意図が窺える。クリミア併合とウクライナ南部での戦闘継続、西側の経済制裁の中、露中の結束強化を演出、上海での演習開始式にプーチン大統領と習近平主席がそろって出席、祝意を述べた。ウクライナとも緊密な関係があるにも拘わらず、中国のロシアへの配慮が目立った。
それに応えるように、「海上連携―2015(Ⅰ)」(本年5月11日~21日)は、地中海東部においてロシア側6隻、中国側3隻が参加して中国の遠洋慣熟訓練に寄与した。中国艦艇はアデン湾・ソマリア海域で国際的護送任務を終えたフリゲート艦2隻(北海艦隊)と大型補給艦(南海艦隊)であった。
「海上連携―2015(Ⅱ)」(8月20~28日)は、ピョートル大帝湾及び日本海海域で実施された。ロシア側は12隻、それに潜水艦2隻、戦闘機、海軍歩兵212人が参加した。中国側はドック式大型揚陸艦「長白山」(約2万㌧)、戦車揚陸艦「雲霧山」(いずれも南海艦隊)2隻を含む7隻、艦載ヘリ6機、早期警戒機1機、瀋陽軍区と南京軍区の空軍部隊の新型戦闘機5機、海軍歩兵300人が参加した。北海艦隊3隻、東海艦隊1隻、南海艦隊3隻の混合艦隊(指揮官南海艦隊副司令)で、北海艦隊重視と南海艦隊揚陸艦による沿海地方南部・軍射爆場での空挺降下を伴う上陸演習(長駆中国基地から飛び立った戦闘機と露戦闘機の協同した上陸対地攻撃)に特色がある。
ロシア側の深入りしないサービス的協同、中国側の貪欲な運用・技能習得欲と政治的宣伝が特徴の合同演習である。
来年の合同演習は、中国は我が物としている南シナ海での実施を望んでいるが、ロシアは躊躇している。これはもはや軍事の問題でなく、政治の分野に移っている。演習が行われる海域、規模や参加艦隊により、両国の思惑が漸次明らかになってくる。また、政治の影響を受けたロシア海軍は、どこまで中国海軍の発展に付き合うのだろうか。
(いぬい・いちう)






