那覇空港管制トラブルに思う

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

安全確実なシステムに

電子機器導入で近代化図れ

 先日、那覇空港において離発着する航空機の管制上のトラブルが発生した。目前の滑走路をまたぐ格好で離陸していく自衛隊ヘリを視認した離陸操作中の民間機が、滑走路上で停止。続いて着陸してきた民間機が、離陸を中止した民間機の後ろに停止するというヒヤリ事件である。本件いろいろの問題点があり、深刻な事態も考えられることから、若干の分析と所見を披露したい。

 離着陸に関する航空管制は、非常に専門的でかつ英語で通常やり取りが行われるなどから一般には理解しにくい面もあるが、基本的には管制塔に位置する管制官の一元統制により、離陸及び着陸が安全な間隔で許可されるものであり、事の性格上、単純明快な許可発出が行われている。

 しかし、今回のようにヘリコプターとの同時使用の形態は、全く違う経路・速度で飛行する異質の管制を同時に行うこととなり、複雑な対応が必要である。また、大規模な飛行場では滑走路が2本、3本と運用されており、その管制は複雑度を増す。さらに、夜間、降水、霧等視程が悪い、あるいは管制塔から航空機が視認できないなどの状況もあり、熟練度の高い管制技術が必要とされるのが実態である。

 ところで、今回の事故については沢山の関係者がコメントしているが、概略次のような状況であったようである。那覇空港は比較的好天気、民間・自衛隊の航空機が次々と離発着する「よくある忙しさ」で、民間旅客機(A機)と自衛隊大型ヘリ(H機)が離陸許可を待っている状況であった。着陸経路には民間旅客機(B機)が進入中であり、管制官としては、A機に離陸許可を与え、続いてB機に着陸許可を、そしてB機着陸後H機を離陸させるプランであったと考えられる。

 ここまでは問題はない。直後A機に離陸許可を送信する。この送信は単器送信方式により送信されるため、送信マイクは一つであるが、複数の周波数で同時送信される。今回の場合、VHFのA機、UHFのH機は離陸許可が下りたのを知る。非常に重要な許可であるので「A機離陸許可、了解」を送信して確認し離陸操作に入る。ところが今回はH機も自分に許可が出たと聞き間違え、「H機、離陸許可、了解」と応答して離陸してしまったのである。このあたりから問題点が多数見受けられる。煩雑を避けるため列挙する。

 ・管制塔の許可は、誤解を与えない良い状態で送信されていたのか。

 ・A機、H機確認応答通信は、管制塔にどう伝わったか。おそらくダブルトランスミッションと言われる雑音状態を受信していると考えられ、それなりの対応が成されたか。

 ・管制塔は離陸待機中の航空機に離陸の順番など管制上の情報を与えていたか。

 ・H機は、離陸を許可されたとの誤認識をしていたとはいえ、通常離陸前に操縦士が行う「滑走路安全確認」のクルー連携は行われていたのか。

 ・A機の離陸中止は正しい判断であるが、滑走路上制御可能な速度に減速以降、自力で滑走路を開放する着意が必要ではなかったか。

 ・B機は滑走路上に離陸中止したA機がいるにも拘(かかわ)らず復行せず急停止する結果となったが、大変危険な状態ではないか。

 ・この異常な状況下、管制塔は、事態の拡大防止、混乱極限のため如何なる対応、指示を行ったのか(B機に対する復行指示等)。

 筆者はここで誰が悪いとか、こうするべきだったといった指摘をことさら行うつもりは全くなく、もっと本質的、抜本的に物事を考える必要があると考えている。

 離陸許可に係る事故は、無線による通信が導入された戦後直後以降、実に沢山の事例を繰り返してきた。無線機性能が不十分な時代、管制官が米軍雇用の語学重視の時代、管制官の高学歴化によるレベル向上の時代、レーダーによる「航空路管制」「ターミナル管制」導入期などの時代の変遷とともに、若干の進歩はあるものの、基本的に旧態依然とした管制原則、無線による許可発出の体制は70年間何も変わっていないのである。このことが最大の問題であろうと考えている。

 読者の皆さんはご記憶と思うが、15年前には旅客機同士のニアミスがかなりの頻度で多発し、「何時かは…」という不安な時期があった。ところが今は全く報道されたことがない。全く結構な状態なのである。転機となったのは、JAL機同士の異常接近に際し、事故調査報告書により「トランスポンダーの回避指示に従うのを第一義とし、操縦技術上の人的判断は次等のものとする」こととし、電波機器優先に踏み切ったことによる。すなわち、人間の判断力のあいまいさ、限界を認識し、電子機器の持つ卓越した未来予測能力を判断の根拠とするもので「大英断」であったと考えている。

 現在は普通道路の交通信号でさえ「自動感応式」が多用され整斉たる交通処理に活躍している。航空交通管制も、70年の伝統はともかく、通信方式のデジタル化、高性能化、交通情報のネットワーク化といった見地から、電子機器の導入等近代化を図り、安全確実な管制システムに脱皮することが何より必要である。

(すぎやま・しげる)