評価すべきG7での安倍外交

太田 正利評論家 太田 正利

国際政治に存在感示す

中国の現状変更にも「反対」

 6月7日からドイツ南部のエルマウ城で開催された先進国7箇国首脳会議(G7サミット)における首脳同士のやりとりは、日本が国際政治におけるプレーヤーになったことを示す。つまり、ここに日本の新しいイメージが生まれたとも言い得よう。

 そもそも「サミット」とは、ジスカールデスタン仏大統領の提唱で、1975年パリ郊外のランブイエで開催されたものだ。当時の参加国は米、英、仏、西独、伊、日本の6箇国で、その際は石油危機後の世界経済の安定が課題、つまり経済政策の協調が中心的議題だった。第2回からはカナダ、第3回からはEC委員会が参加、第5回は日本で開催された(日本における開催は他に86年、93年、00年、08年。16年には三重県志摩市が予定されている由)。ソ連崩壊後は第24回(98年英国)からロシアを交えて「政治サミット」の性格が強まり、地域紛争問題も大きな比重を占めるようになった。

 今回のエルマウ会議(露は不参加)においては、ウクライナ情勢と同時に注目を集めたのは中国による南シナ海での岩礁埋め立て問題だった。この会合における日本の立場は、冒頭発言を求められた安倍総理の発言に要約されている。曰く「…本年は、戦後70年、ランブイエ・サミットから40年に当たる年であり、振り返れば、G7は自由、民主主義、人権、法の支配という基本的価値に立脚し、国際社会の秩序を支えてきた…グローバルな視点から対応できるのはG7であり、我々の責任は大きく、G7の連携が益々重要になっている…」。従来の米国主導の世界が、中国主導の世界へと大きく舵(かじ)を切るのか否か日本は今その局面に立つ。ここに日本の総理が日本の目指す価値観をもってその存在感を示したのである。

 首脳宣言での外交政策については共通の価値・原則の強調があり、G7による自由、平等、領土の一体性と国際法、人権の尊重の重要性を強調するとともに、すべての国の主権平等を堅持するための不断の努力、領土の一体性と政治的独立の尊重を強く支持する。同時に国際法の尊重と世界の安全保障を阻害する現在の諸紛争を懸念するといい、特にウクライナ問題につきロシアによるクリミア半島の違法な併合への非難を改めて表明、不承認政策を再確認した。

 ウクライナ停戦については、同国東部で紛争を巡る停戦合意である「ミンスク」合意(本年2月12日にウクライナ・露・独・仏の4首脳によるもの)の実質的履行を迫り、ウクライナ政府による包括的かつ構造的な改革を支持することが確認された。安倍総理からは、力による現状変更には毅然(きぜん)と対応しつつ、地域問題をめぐるロシアとの対話の継続が重要たること、また、前日のウクライナのポロシェンコ大統領との会談の結果についてブリーフされた。すなわち、ウクライナヘの支援を約束し、新たに1100億円の円借款供与を決めたほか、ウクライナ情勢については、すべての当事者(露を含む)に停戦合意の完全履行を求め、ロシアが合意を完全履行しない場合には制裁を継続すると決めた。「ロシアに対し力による不法な現状変更の試みは許さず」との日本の強い意志を示したのだ。

 そもそも、国際政治において「遠慮」や「原則を曲げる」ことは決して良い結果を生むことはない。日本的な「謙譲の美徳」は世界に通用しないのみならず、逆に自身の「弱み」と取られるのである。同時に、EU諸国にクリミア半島問題で対露制裁の継続は、力による現状変更を許さぬという価値観による点を再認識させ、クリミアと南シナ海の埋め立ては同根の問題たることを納得させた。かかる認識の下に中国による岩礁の埋め立てに「強く反対」なる文言を宣言に入れたのだ。

 さらに、政治がらみの大きな問題の一つは、中国による沖縄県尖閣諸島への領海侵入や南シナ海の岩礁埋め立て問題等で、一方的な現状変更に強く反対する考えで一致した。なお、この問題については、安倍総理は、サミット開会前にフランスのオランド大統領と会談した際、かかる中国の海洋政策について「懸念を共有する」との認識で一致し、サミットの討論においても南シナ海を念頭に「力による現状変更など安全保障上の脅威が存在する」と指摘していた。さらに、安倍総理からは、北朝鮮による核・ミサイル開発の継続は地域及び国際社会に対する重大な脅威であること、また、「拉致」は基本的人権の侵害という普遍的な問題であるとして各国の協力を求めた。

 会議では、AIIB(アジアインフラ投資銀行)について白熱した議論が行われた。G7は自由貿易推進などでかりそめの結果は演出したが、中国への対応について温度差も目立つ。安倍総理は、「汚職があっては途上国のインフラは育たず、持続可能でないことに金をかけるな」と、また、オバマ米大統領は「持続可能な開発でなければ問題」と牽制(けんせい)したが、EU欧州連合の英独仏伊はこれに参加する旨表明した。日米加は参加見送りの方向だ。

 ただ、日米主導のTPP(環太平洋連携協定)、米欧のTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)、日EUのEPA(経済連携協定)の三つのメガ貿易圏づくりは、産みの苦しみに直面している。世界経済の安定成長に向けてG7が担う課題は重いと言わねばなるまい。

(おおた・まさとし)