日米防衛指針見直しに期待
一層の防衛協力体制を
作業で培う強い絆と信頼感
安倍総理訪米に際してオバマ大統領との間で合意される「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)の見直し作業実施について報道されている。先の集団的自衛権一部容認に係る閣議決定、関連法整備に係る検討の進捗(しんちょく)、中谷防衛大臣とカーター国防長官の会談など一連の事前調整の下で合意されるもので、誠に結構な成り行きと考えており、若干の所見を披露したい。
日米防衛協力の指針は、昭和51(1976)年当時「国力国情に応じ斬新的に国防力を整備する」としていた我が国防衛力整備に関し、「基盤的防衛力」という概念を確立、整備目標を明確化したのに続き、53年日米防衛協力の指針を明示して、我が国防衛のあり方を明解、堅実に示した画期的作業であったと考えている。
冷戦構造の厳しい当時、日米安保の信頼性に疑問を呈する反米系の意見もあるなか、指針による米国の意志の明確化、続いて実施された指針に基づく「日米共同作戦計画」作業を通じて示された米国側の真剣な取り組みにより、関係者の米国に対する信頼感は定着し、同時に米国側の我が国の防衛努力に対する評価も確立したと考えている。
筆者は当時作戦計画作業航空作戦部門の主担当者の位置にあり、連日の苦労を懐かしく思い出している。総じて言えば、米国は多数の国と、共同作戦計画を持ち、専門のベテラン幕僚が派遣されてくる。我が方は「有史以来」共同作戦計画など作ったことのない「輝かしい伝統」のアマチュア集団である。さらに原文「英語」という決定的なハンディもある。当初は苦戦の連続であったが「案ずるより産むが易し」。双方カルチャーの差を認識しつつも理解が進み、何より大切な相互の信頼感を確立、満足感のある作業ができた。
調印セレモニーを終えて事務所に帰る官用車の中で、「やっとお国のために仕事らしいことができた」という感慨に浸ったのも懐かしい記憶である。一連の作業を通じ、米国の情報、軍事ドクトリン、脅威の評価といった実作業を経なければ得られない貴重な体験をしたのも有り難いことであった。
そして、冷戦崩壊後の防衛力のあり方を検討した結果、新防衛大綱(07大綱)が策定され、これを受けて「指針見直し」が実施され、平成9年「新指針」が締結された。この新指針においては、一層不安定さを増す世界情勢下、日米同盟の重要性の再確認、周辺事態対処、平素からの協力といった主要点を中心に見直しが実施され、続く作戦計画作業においても、周辺事態について新しい作業が実施された。この見直し作業における最大の収穫は、紛争が多様化するなか、日米関係の一層の緊密化が内外に示され、東アジア地域の安定に強い意志表明が行われたことにあり、誠に時宜を得た見直しであったと考えている。
しかし、同指針策定より18年、世界情勢、我が国周辺軍事情勢が大きく変化した。中東イスラム圏における過激派の活動が拡大の一途を辿っている情勢。我が国周辺においては、中国の過大ともいえる軍備拡張。北朝鮮の核開発。特に中国の尖閣海域での挑発的活動。中国の南シナ海における領土係争地域での一方的な基地建設。さらに、大量の上陸用舟艇(ROROタイプ)を含む上陸専門部隊の創設等ただならぬものがある。
空母、原潜を中核とした中国海軍の大洋進出能力も着実に進んでいる。このような情勢下、日米双方がどのように事態を認識し、如何なる協力体制を宣言するのか、我が国はもちろん周辺諸国も一致して大きな関心を寄せるところである。
さらに今回注目されるのは、次の三点にあると考えている。第一点は、前回にも記述があった離島等へのゲリラ・コマンド攻撃への対応である。尖閣周辺の対峙(たいじ)状態を踏まえて如何なる表現で協力体制を堅持するかについては、最も国民的期待が高いところであろう。
第二点は、従来周辺事態という概念で「我が国周辺における事態で日本の平和と安全に重大な影響を与える事態」という地域的に特定したものを如何なる表現で新しい情勢に備えるかという問題であり、シーレーンの安全という観点からの接合が重視されるところであろう。
第三点は、昨年来検討が続いている集団的自衛権行使を容認するケースに関連し、いわゆるグレーゾーンへの明快な解釈により一層協力体制が進むことが期待されるところである。その他、情勢厳しい国際協力活動との関係など様々な観点から国民に安心感を与える見直し作業が行われることを期待する。
日米同盟下、情勢に応じた防衛協力の指針の明示、指針に基づく事態別共同作戦計画の検討、計画に基づく訓練演習の実績は、我が国の安全にとって最も重要な防衛努力であり、成熟すればするほど我が国の抑止力として強く機能する。そして、この間の日米双方の参加者の努力が強い絆と信頼感を醸成していく。関係者には大変な努力であるが、誇れる作業を実施して、我が国の防衛、地域の安定に大きく寄与してほしいと願う次第である。
(すぎやま・しげる)






