大地震は必ず来ると覚悟を
地域差がある地盤強度
不気味な太平洋の沿岸地帯
最初に設問したい。1923年(大正12年)9月に関東南部を襲った大地震の震源地はどこだったろうか、と。しばらく前まで、筆者自身は「東京湾北部か東京下町の千葉県寄りか、それとも千葉県の東京近くか」ぐらいと想像していた。犠牲者が隅田川東岸の広場に多く、隅田川に飛び込んで溺死する人々も少なくなかったからである。
が、実は大間違い。大地震の震源地は、専門家によると神奈川県で、それも東京・墨田区からはかなり離れた大磯沖だったとのこと。しかも、これも専門家の指摘で知ったことだが、同じ神奈川県の小田原市は、かつてほぼ70年周期で巨大地震の直撃を受け、小田原城が崩壊することもあったという。ところが、ここ約100年間は関東大震災を別とすれば小田原直撃の大地震は発生していない。地震は地盤破壊から発生する。破壊の速度には地域差があり、かつ、破壊の速度は日本全国の到る所に活断層があって現在の技術水準をもってしても的確な計測は不能なのが実情だといわざるを得ぬ。
確かな事実として指摘できるのは、日本はまぎれもなく地震多発国だということで、これには、アジア大陸を支える大プレート(巨大岩盤)の下へ太平洋プレートやフィリピン海プレートがもぐり込むことによって発生するというのが、通説になっている。東大の地震研究所長だった森本良平教授(故人)に「仮説ですか」と尋ねたところ「もちろん仮説です」とのことだったが、昨今では、このプレート沈み込みとするのが専門家のほぼ一致した判断になっている。ただし、なぜこのすべり込み現象が起きるのかは、筆者の調べた限りでは、分かっていない。
世界の各地域に地震帯が存在する。インドネシアからフィリピン、台湾、日本列島、千島列島、アリューシャン列島、カナダから米国にかけての北米大陸の太平洋沿岸地帯、さらにカリブ海のほかチリなど南米大陸のこれも太平洋沿岸地帯など。つまり、環太平洋は地震多発地帯と位置づけることができる。ただし、オーストラリアは別の安定的なプレートの上にあるとみえて、筆者の調べたところ、大地震発生の記録はない。しかし、この大陸に近いニュージーランドは地震多発地帯に属する。
欧州では、地中海に長靴のように突き出たイタリアが地震多発地帯に属する。半島南部のナポリに近いポンペイがベスビオ火山の大噴火で埋没した(西暦79年8月)ことはあまりにも有名で、その後の発掘調査で埋没以前はローマ帝国の有力都市だったことが知られ、今日もイタリア内外の観光客が後を絶たないと聞く。地震から火山爆発へと話は脱線したが、両者が不可分の関係にあるらしいことは地震研究者たちのいわば定説になっている。
南米のチリは、万年雪の覆う高山が連なり、しかも活火山が多いが、中央の低地は地盤が不安定で世界有数の地震多発国として知られる。かつ、大地震は大津波を伴う。チリの大地震に起因する大津波は、日本の東北太平洋岸一帯に大きな災害をもたらすことが珍しくない。
先の東日本大震災の震源は、三陸に近い太平洋だったが、チリ大地震によるものも含めて三陸地方は何度も大津波の襲うところとなり、その度に、多数の人命を失い重大な物的損害を経験している。その事実に関しては、私も心底から同情する。だが、三陸を襲った何度もの大地震と大津波の歴史を振り返れば、歴代の政府や被災地の自治体の知事・市町村長らの無作為の責任も、もっと問われてしかるべきだと考えているが、どうだろうか。
分かりきったことだが、地盤の強度には軽視できない地域差がある。軟弱地盤では地盤液状化現象が発生しやすいし建造物も倒壊する懸念が大きい。東京の場合、関東大地震の被害が震源地からの距離では山手地区よりも遠い下町地区に多かったのは、地盤の強度・安定の差も多分に影響していると考えてよかろう。
地震は、地盤破壊そのものといっていい。地盤のずれがすなわち地震にほかならない。地盤のずれで有名なのは、岐阜県の根尾谷に生じた地震(1891年=明治24年)で、断層は上下のずれが約6㍍に達したとのこと。横ずれも約4㍍だったと記録にある。
残念ながら、地震発生予知の手法はまだ開発されるまでになっていない。ただ、地震の発生する震源地にはそれぞれ地盤破壊の進行速度に個性があるので、そこからごく大まかに、○○地方は前回の大地震から××年経過したのでそろそろ要警戒段階か、との推測はできるが、これも的確な予測ではあり得ぬ。とはいえ、約70年ごとに大地震に襲われた小田原を含む相模湾周辺から四国の南海にかけて、かなり長期にわたって大地震がないのは、なんとなく不気味ではある。太平洋岸のあちこちに、しかと人には気付かれぬ地盤隆起や逆に沈下の現象があるとの専門家の指摘も気になる。
ところで、この地球全体での地震発生の数はどれほどだろうか。これも専門家の受け売りだが有感無感の合計で約百万回に達するという。
(おぜき・みちのぶ)