平成27年度防衛予算に思う
遅まきな事態への対応
国民に分かりやすい説明を
選挙で中断していた平成27年度予算編成作業が整い、政府案がまとまった。防衛予算については「11年ぶりの高い防衛費」といったフレーズが目につく。確かに4・9兆円の予算は平成16年(4・8兆)以来の数値であり過去最高ではある。しかし、改めて11年間の低迷を考える必要がある。端的に言うと、中国の国防予算は11年前、2000億元であったが、年率10%の進捗(しんちょく)から、昨年の予算は8000億元、実に4倍の予算規模(防衛白書)となっている。
これにより、人民解放軍は、大連港に廃材として係留されていた旧ソ連空母「ワリャーグ」を再生、空母「遼寧」とし、原子力潜水艦、先進戦闘機をはじめ、ステルス実証機に至るまで、質量ともに拡大の一途を辿り、この軍事的優位を後背に、我が国及び南シナ海周辺国に、有無を言わせぬ領土、海底資源への飽くなき欲望を押し付けるに至っている。このような状況下、11年にわたって防衛費を据え置いたこと自体稀有(けう)のことと言わざるを得ない。
勿論、防衛費低迷の原因は多々ある。総じて言えば、高齢化社会独特の社会保障費の増加、景気低迷による税収の伸び悩み、東日本大震災の復興経費を初めとし、膨大な赤字を抱える国家財政への対策が成さしめたものと言えよう。これら諸状況を踏まえ、一昨年末、消費税増税を前提に、周辺警戒監視能力、島嶼防衛、弾道ミサイル対処など喫緊の課題に対応するべく、新たに新防衛大綱を決定した。
これに伴い平成26年以降の5年間にわたる中期防衛力整備計画が策定され、平成27年度予算案はその第2年度にあたるものであり、言わば、計画通りの予算なのである。実に遅まきながら、着実に事態に対応できる装備を整え、国民が安心できる安全保障体制を構築して行って欲しいと考えている。
予算で計画される装備を個別にみると、陸上自衛隊のチルトローター機オスプレイの導入が目を引く。オスプレイは、普天間問題で脚光を浴びたが、新世代を開く航空機であり、その機動展開能力は素晴らしい。陸上自衛隊の機動能力向上の中核として、その戦力化に大いに期待したい。
海上自衛隊は、波高い東シナ海を睨んで各種の対応が期待されるが、国産哨戒機P1の装備が本格化する。海上哨戒の充実は今後ますます重要度を増すテーマであり、イージス艦、潜水艦の増強とならんで、海上警戒監視の主力となってほしいと考えている。
航空自衛隊は、ステルス戦闘機F35の導入が本格化する。開発が難航している中国ステルス機に対し唯一先行している装備だけに期待は大きい。その他、与那国島への部隊配置、早期警戒機、情報収集機の増強など警戒監視能力の向上を重点とする施策が目を引くが、当然の施策とはいえ結構なことと考えている。
ここで、予算に関連し一般国民的な視点から注文を付けてみたい。防衛白書、中期防、予算編成にあたっての一連の政府説明は整ってはいるが、安心感を与える観点からは、はっきり申し上げて解りにくい。国民的には、メディアが報ずる周辺国の我が国に対する軍事的な挑発事象にどのように対処しようとしているのか、安全は守られるのかといった心配が、興味の焦点である。
例えば、中国の空母建設が進んでいるがどう対処するのか、あるいは原子力潜水艦の活動が報道されるが、対応の方針は決まっているのか、国際的法規を無視した防空識別圏でのトラブルへの対策はあるのか等々がその最たるもので、筆者もよく質問を受ける。
これに対し、例えば空母に対しては、わが領土がかの行動半径に入るような航行に対しては、衛星、空中警戒機、哨戒機、無人機、固定レーダー、イージス艦等を総合的に運用し、常時継続的に監視し、不測事態には確実に各種の対艦ミサイルを集中使用できる態勢を構築する。このため、今回予算案に計上されたような装備を増強する。あるいは対艦ミサイルの射程・性能向上を図るといった具体的説明が必要であり、防衛力予算の今後の所要増に、国民的理解を得やすいと考えている。
原潜対処に関しては、おそらく一般の国民は何も知らされていないと言ってよいだろう。もともと潜水艦は隠密兵器、秘密区分の高いのはよく解るが、国民的支持という観点からは施策を講ずべきである。中国原潜は長年の開発トラブルで難航したが、晋級原子力潜水艦(戦略ミサイル搭載、SSBN)の量産が始まり、攻撃型原潜(SSN)では商級原潜が国際レベルの性能を持つに至り配備が進んでいると見られている。
原潜と通常型潜水艦は同じ潜水艦であるが、性能的には全く別兵器と言ってよいほど乖離(かいり)している。水中速度30ノットを超える機動能力、連続長期間の潜航能力は際立っており、通常潜は勿論、水上艇でも追尾は困難である。筆者は、中国の原潜開発の伸長に伴い、我が国もSSN開発に踏み切る時期が来たのではないかと考えているが、これらを含めて国民に安心感を与える対応策の説明が必要ではないだろうか。「開かれた自衛隊」のキャッチフレーズもあり、もっともっと丁寧な説明努力が必要である。
政府予算案策定に伴い、11年続いた防衛費低迷の反省と、防衛費増強への国民的理解獲得への一層の努力を訴えて所見としたい。
(すぎやま・しげる)