ホリスティックな健康観を

根本 和雄メンタルヘルスカウンセラー 根本 和雄

心に湧く気高さも必要

その人らしい生きがい発揮

 我が国における「超高齢社会」は、私たち一人ひとりの生き方と健康に対する考え方を、新たな視点から見つめ直す機会になりつつあるのではなかろうか。なぜならば、単に身体的に病んでいないというこれまでの「健康観」では、現実的に説明のつかない現象に新たに直面しているからである。

 もともと「健康」の語源は「全体」(whole)であったのに、精神と身体を切り離して、人間を分析的・即物的・加算的にしかみない現代医学は“ケア(care)よりもキュア(cure)を先行させる医療に”陥っている気がしてならないのである。この現状に対する反省として、アメリカにおいて1970年代に「ホリスティック医学」運動がカリフォルニアを中心に起こり、身体と精神と環境を分離せずに、それらが調和的な平衡を保っている状態のことを健康と呼ぶ人々が増えてきたのである。

 既に、スイスの医師ポール・トウルニエは「本当の医療は、患者を分解することではない。その人全体において捉えていかなければならない。即ち、肉体的・心理的・社会的・霊的側面など全体で捉えなければならない」と語っている(「人格医学」・1940年)。この考え方は、近年WHO(世界保健機関)の創立50周年を記念して、新しい健康の定義が提案される折にも反映され、その原案づくりが98年にジュネーブで行われ、次のような内容になっている。

 「健康とは、身体的、精神的、社会的かつ霊的(スピリチュアル)に完全な一つの幸福のダイナミカルな状態を意味し、決して単なる病気や障害の不在を意味するものではない」とし、しかもWHOは霊性を次のように説明している。即ち「霊性とは、自然界に物理的に存在するものではなく、人間の心に湧き起こってきた観念の~とりわけ気高い~領域に属するものである」と述べている。

 つまり、“人間の心に湧き起こる気高いもの”とは、その人に固有の存在と特有の価値観を持って生きることに他ならないのである。いま、「健康」とは何かと問われたとき、この固有の存在に基づいた価値観によるその人らしい生き甲斐や、やり甲斐のある生き方ということになるのではなかろうか。

 “その人らしい生き方”とは、その人に応じて「養生」という生命のエネルギーを日々高める生き方であると思う。これまで病気の原因については「特定病因説」(細菌やウイルスなど病気を引き起こす特定の原因がある)と「不調和病因説」(体の中の調和や心と体の調和、体と心と環境が崩れて不調和の状態)があるが、「養生」とは、その不調和を生みだす可能性のあるものを取り除いた生き方ということになる。例えば、自然で新鮮で栄養バランスのとれた適量の食べ物、適度の運動、楽しく明るい精神状態、緑が豊かで安らかな環境状態などでのライフスタイルということである。

 確かに、イギリスのナチュロパシー(自然療法=体の生命力をとり戻し自然治癒力を引き出させる)のカレッジの学長デニス・カイリーによれば「人間とは、精神的・肉体的・霊的な全体である」とし、「健康はこれらの三つのバランスがとれている状態をいう」と定義し、なかでも、睡眠・休養・運動・良質な栄養とそのバランス、そして心の持ち方が重要であることを指摘している。

 この「心の持ち方」は、その人の思想や信仰と深く関わって、人は“何のために生きるのか”という問題に答えるもので、それによって人生をしっかりとした土台の上に据えてくれるものである。こうした「信念体系」こそが生きる意欲や生きがいとなって人生を充実させ、より豊かなものにする源ではないかと思うのである。たとえ病に侵されても、その病と対峙(たいじ)できるのは、その人の心の持ち方によるのではないかと思わずにはいられないのである。

 さて、これまでの内容を要約しつつまとめの要点を述べてみたいと思う。ホリスティックな健康観とは、人間を全人的に包括し理解して、その人らしい生きる意味や生き甲斐を充分に発揮できるようにすることに他ならないのである。そのためには、心身の調和を保ち、生命エネルギーを日々高める養生を心掛けることである。

 それには、心身の調和を願う祈りが必要なのである。世の中すべては、宇宙の調和の中で成り立ち、すべて自然の法則に支配されているのである。従って、心理的苦悩をできるだけ少なくして安定した感情を維持できるように祈ることによって、心身の健康を保つことができるのである。

 例えば、アメリカ、ボストンの病院のジョルジュ・バイヤ医師の調査によれば230人の男性の75歳時点での死亡率の内容は、苦悩の多い人35%、苦悩の少ない人25%、苦悩のない人5%という状況であった。この結果について、バイヤ医師は、“いかに感情の安定が健康に影響を与えているかは明らかである”と語っている。

 それ故に、どれほど感情の安らかさを願う祈りの効用が大事であるか、また「感謝の祈り」ほど私たちの魂の成長に必要なものはないことも明らかである。

 フランスの生理学者アレックス・カレル(Alexis Carrel)はこう語っている。

 「祈りは、人間が作り出せる最大のエネルギーである」と。

(敬称略)

(ねもと・かずお)