切れ目なき日米防衛協力を

竹田 五郎軍事評論家 竹田 五郎

新指針で不測事態防げ

専守防衛政策の見直し必要

 日米防衛協力のための指針(以下、指針)は自衛隊と米軍との役割分担を規定したものである。日米両政府は、17年ぶりに、日本をめぐる情勢の変化に対応できるように、指針の改正に着手し、その中間報告も発表された。

 中国は「中華大国の夢」を実現しようとし、不法な海洋進出を図り、周辺諸国に脅威を与えており、我が国とも尖閣諸島領有につき、厳しく対決している。今や、西太平洋制覇の意図をも表明している。一方、「イスラム国」の無法なテロは、中東地域に止まらず、世界各地に波及拡大しかねない。日本に対する脅威は増大している。

 国の安全と平和は、天与のものではない。独立国として確固たる自助努力に励み、かつ、不足を他国との同盟、協力により補完することによって得られるが、我が国の実態はともに不十分と言えよう。日本にとって不可欠な米国は、国力も低下し、世界の警察官としての地位を放棄した。我が国の「平和憲法」を、ノーベル賞候補として申請するとは笑止千万である。安倍内閣は、我が国の自主防衛を強化し、かつ「平和憲法」を盾として、集団的自衛権の行使を拒む一国平和主義からの脱却を目指している。

 過去2度の指針について、①主な脅威②主な内容―について要約すれば、次のとおりである(9月28日付「日経」参照)。

 第1次指針(昭和53年11月)。①旧ソ連②有事に備えた共同作戦の研究、有事の共同作戦(米軍は攻め、自衛隊は守り)。

 第2次指針(平成9年9月)。①北朝鮮、中国、ロシア②日本の役割分担を「平時」「有事」「周辺事態」に分類し、周辺事態では警戒監視や後方支援につき40項目で協力。

 従来の指針では、日本有事の指針としては、具体性を欠き、明確ではなく、緊迫化する情勢下、日本の安全は期待できない。

 中間報告によれば、新指針は中国の海洋進出、サイバー攻撃の増加や米国防費の削減等を考慮し、日本の役割分担を以下のように拡大している。①中国、北朝鮮、ロシア、国際テロ②米艦護衛、後方支援の拡大、グレーゾーン事態(尖閣諸島のような離島に対する、軍事力によらない不法占拠等の緊急事態)対処での連携強化、宇宙やサイバー分野での安保協力、アジア太平洋の友好国との安保協力。

 新指針は、「切れ目のない対処」が、作戦上極めて重要であるとして再三強調しており、グレーゾーン事態対処もその一環である。一方、従来同様「日本の行為は専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる」と述べている。

 専守防衛の意味の曖昧なことは、9月に本欄でも述べた。外国で基地に対する攻撃を憲法上認めぬとする国はなく、米国民の多くも専守防衛の英訳〈exclusively defense〉ではその実態を理解していないであろう。自衛隊は、地上戦闘支援及び近海における艦船攻撃を行う支援戦闘機を保有しているが、外国基地を攻撃する能力は無く、米軍に依存している。これを欠いて日本の防空は期待できない。換言すれば、能力的に航空脅威には当初から切れ目(空白)があり、それを補完するのは米軍であることを、日米両国民は理解しておくべきである。

 日米安保条約第5条は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処する」と定めている。情報発達した今日、奇襲を受けることはあるまい。しかし、米軍の出動には大統領の認可が必要である。また、そのためには、議会の承認を得なければならず、時間を要する。航空作戦の進展は速く、応戦の機を逸し、不利となる。

 3年前、ゲーツ米国防長官は「太平洋の米軍の存在は5年後も同じで、その影響は弱ることはない」と言明した。日米同盟が深化する限り、当分は対日武力侵攻を企図する国はあるまい。減衰しつつあるとはいえ、米国の抑止力は機能していると言える。しかし、同じく6月、米ニューズウイーク誌は、中国は10年後には西太平洋における制海能力を確保するやもしれずと、述べている。中国は世界第1の貿易額を得、米国に次ぐ世界第2の経済大国、軍事大国に驚異的な発展を遂げた。

 習政権はその国力を背景に、国際法に反して海洋権益の拡大を強行している。しかし、前中国大使・丹羽宇一郎氏が著した「中国の大問題」にも詳述するように、都市と農村の経済格差、国有企業の赤字体質、少数民族問題、要人の汚職等の難問を抱えており、対米関係の悪化は避けたいであろう。しかし、我が国としては、中国一部空軍部隊の暴走といった不測の事態に備えておく必要はあろう。

 中国は長期計画として近接阻止戦略に基づき、平成32年までに西太平洋の制海権獲得に邁進(まいしん)している。これに備え、空襲に即応して、その基地への反攻能力が必要である。次期候補戦闘機について、爆撃装置を除去すべきではない。政府は、専守防衛に関する見解の整理、見直しを急ぐべきである。

(たけだ・ごろう)