露国亡命後のスノーデン氏
情報機関統制下の生活
「幸運」とメディア演出続く
エドワード・スノーデン元CIA職員がロシアへの一時亡命を認められてから約1年が経過した。
昨年6月5日「ガーディアン」紙、6日「ワシントン・ポスト」紙に暴露記事が掲載され、9日に自らが情報源だと名乗り出た。
これら新聞社に橋渡ししたのは、「ガーディアン」にブラジル在住の米国籍人権活動家グレン・グリーンウォルト(以下G)氏、「ワシントン・ポスト」には米国人ドキュメンタリー監督ローラ・ポイントラス(同P)氏で、両氏は旧知の間柄である。
これより先スノーデン氏は、2013年5月20日、勤務地ハワイから出国、香港に入った。
G氏とP氏は5月31日、ニューヨークで合流、G氏は米ガーディアン社上層部とスノーデン氏との接触の可否を協議、同意を得て6月2日夜、両氏は香港に着く。
6月3日午前、スノーデン氏とG、P両氏は、彼のホテルで初めて会い、互いに確認後彼の部屋に行った。G氏が5時間に及ぶインタビューを行い、人生、仕事、今回の具体的行動、動機、香港にいる理由などを聞き、P氏がそれをビデオに収めた。そして冒頭の暴露記事掲載となる。
6月10日、香港在住のG氏の旧知のすすめで、人権と難民問題の敏腕弁護士2人をスノーデン氏につけることにした。彼は以降弁護士の保護下に入る。
彼は、モスクワに向かう数日前から香港のロシア領事館に居住し、6月21日には30歳の誕生日を領事館で祝ってもらった。同日航空券を購入、23日領事館から直接空港に行き、アエロフロート機でモスクワに向かった(露『コメルサント』紙13・8・26)(*1)。
モスクワの空港で旅券失効で足止めとなり、最終的に8月1日、ロシア移民局から一時亡命を認められた。この間、クレムリンとつながりのある人権派で、ロシア社会院(*2)メンバーであるアナトリー・クチュレナ氏がロシアでの弁護人となり、一時亡命申請なども手伝った。
香港でのロシア領事館との接触、露弁護人の介在などを考えるに、ロシア情報機関の統制下にあり、彼の知識、能力を吸収していると思われる。
身の振り方として政府機関で働くとか、いろいろ取り沙汰された中で、露版フェイスブックともいわれるソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)大手「フ・コンタクチェ」(VK)からプログラマーを提示されてもいる。
因みに、ウクライナのマレーシア旅客機撃墜事件発生直後、米国防情報局(DIA)がウクライナの親ロシア分離独立派の、このVK上の「ウクライナ軍の輸送機を撃墜した」との投稿を見つけ、西側の撃墜犯特定の元となった。マイケル・フリンDIA長官は「誰が、何時、どこで撃ったのか、ものの数分後に、最初の情報をSNSで得た」と述べている(『ウォールストリート・ジャーナル』紙14・8・7)。
閑話休題。8月18日、父親のロン・スノーデン氏は、米弁護士のインターネットを通じて息子と約2時間話をする。
10月10日、ロン氏はモスクワ入りし、息子と会う。テレビ出演もし、「息子とウィキリークスやジュリアン・アサンジ代表との関係は分からない。ただある役割を果たしてくれたことを感謝している」旨、述べた。
ウィキリークスとの関係だが、スノーデン氏はそもそも暴露先に選んでいない。また香港滞在時や空港での足止め時に金銭面を含め各種支援を行ったとの報道のある割には、距離をおいている感がある。父親の言外にも、ウィキリークスをよく思ってない様子が窺(うかが)える。
亡命3カ月の11月1日、やっと就職先が決まり、露大手インターネット関連企業でサイトの運営支援を始めることになった。
目についた彼に関連する報道として12月ブラジル紙、ブラジル・テレビ、ワシントン・ポストのインタビュー、英テレビのインタビュー、14年1月ウィキリークスなどへ資金援助している米NPOの役員要請、独テレビ対談、ノーベル平和賞候補推薦、英グラスゴー大学名誉総長選出、3月テキサス州ITイベントにインターネット参加、4月プーチン大統領の国民の質問に応える慣例番組にビデオで大統領に質問、5月米テレビのインタビューと、頻繁に顔を出し話題になっている。過去の人になるのを懸命に防ごうとしているかのようだ。
亡命期限間近の7月、ガーディアン紙のインタビューで「ロシア語を学び、古典文学を読みふける日々」「一時難民認定を受けたことは幸運」「全く正常な生活」「米裁判所が私の事件を公平に審議するのなら、祖国に戻ることに反対はしない」と言う。
表向き満足した生活かもしれないが、祖国への帰国願望は誰にもある。だが、スノーデン氏は今の生活をしばらく甘受しなければならないだろう。
(いぬい・いちう)
*1 プーチン大統領も、昨年9月4日、露テレビ「チャンネル1」と米AP通信のインタビューで、彼がモスクワに向かう2~3日前に香港でロシアの外交官と接触したことを認めている。
*2 社会院は、市民と政府の橋渡しをすることで、市民の権利と自由を守る役割を果たす組織。メンバーは大統領令で指名される。






