防衛白書がみた中国軍動向
「脅威」を率直に表明
中国は透明性のある説明を
平成26年版防衛白書が40巻目として8月に公刊された。写真や図表の外にコラム解説など読み易く工夫されており、わが国の安全保障問題が注目される折から、多くの国民に読まれるよう勧めたい。
筆者の関心は、①近年の中国との軋(きし)みあいなどを踏まえて安全保障環境をどう見ているか、②安倍政権の安全保障戦略や防衛計画の大綱改定などはどのように説明されているか、の2点にある。中国はわが国の防衛体制の強化を猜疑(さいぎ)の目で見て反発しているが、中国ウオッチャーの視点から読み解いてみたい。
まず①のわが国を巡る国際情勢については、第1部「わが国を取り巻く安全保障環境」で詳述されており、わが国周辺で不安定要因が顕在化し、尖鋭化している実態を解説している。当面そこにある危機としては北朝鮮の核ミサイルの脅威があり、スカッドミサイルの射程延伸(1000㌔㍍)や新型ミサイルKN08の大陸間弾道ミサイル(ICBM)化などを警戒している。同時に核ミサイルの成果が北朝鮮を過信させ「誤認して軍事的挑発行為を増加させる危険性」に懸念を示している。
しかし、中長期的には「アジアの不安定要因をより深刻化」させる主要な脅威には中国の領域拡大が挙げられる。その中国の海洋進出を支える中国海軍については、南西諸島から西太平洋海域への行動拡大や、艦隊の宗谷海峡からオホーツク海を経てわが国を周回航行するなど外洋展開能力の向上などを指摘し、警戒している。特に実弾演習など海軍演習の活発化を踏まえて、中国が他国の軍事力の接近・展開の阻止(A2)と周辺地域での軍事活動の阻害・拒否(AD)の戦略を展開していることに憂慮を示している。
また、中国が昨秋に防空識別圏を設定し、東シナ海上空で緊張事態を多発させていることにも強い懸念を示している。実際、航空自衛隊の2013年度の緊急発進(スクランブル)は810回に及んだが、その大半は中国機であったのに加えて中国戦闘機の異常接近が反復されていることにも危険感を示している。
これら中国軍の行動を支える国防費については、「過去26年間で約40倍」「過去10年間で約4倍」と急増ぶりを指標で示すとともに、その異常な急増に疑念を投げかけ、近年の軍事活動に絡めて意図の不透明性を指摘している。
さらに、南シナ海でベトナムの排他的経済水域内の強引な海底資源探査活動を「非常に危険」「高圧的とも言える対応」と批判している。また、中国の「各種の監視活動や実力行動などにより、当該島嶼(とうしょ)に対する他国の支配を弱め、自国の領有権に関する主張を強める」行動についても既存の国際法秩序とは相容れない国益追求を進め、「力を背景とした現状変更の試み」と見て、不安感を率直に表明している。
これまでの防衛白書は脅威について抑制的に表現してきたが、本年版は比較的率直に表明している。これは中国の国防白書(12年版)が尖閣問題で日本を名指し批判したことと合わせ、両国関係は率直に危機認識を指摘し合う時代を迎えたと実感させられた。
同時に白書は、領有権が絡む国家との関係で、安全保障上の競合がある一方で経済面では相互依存関係の深化が進む複雑な関係に触れて、国家の対応が複雑になったことも認めている。その上で、東シナ海で想定される漁民を装った離島占領などの事態を、平時でもなく有事でもないグレーゾーン事態とし、それへの懸念と自衛隊の関わり方にも触れている。
このような情勢分析を踏まえて、もう一つの関心事である②の新しい安全保障戦略や防衛政策について、白書は第2部「わが国の安全保障・防衛政策」を新設して、中国の台頭や安全保障環境の変化を踏まえて、新たな安全保障法制の整備の基本方針、国家安全保障会議の創設、国家安全保障戦略などについて説明している。
そこでの記述は、集団的自衛権行使を限定的に容認する新たな政府見解の閣議決定を「歴史的な重要性を持つ」と評価し、緊急事態が発生した際の切れ目のない対応を可能にするよう法制整備の重要性について強調している。さらに、国家安全保障戦略を踏まえて改訂(5回目)された「防衛計画の大綱」では、「統合防衛機動力の構築」を柱として第1部で見た安全保障環境に対応しようとしている。わが国防衛の基本方針については、①わが国自身の努力、②日米同盟の強化、③安全保障協力の積極的な推進――の三つのアプローチの踏襲を表明している。
そして新大綱に基づき策定された「新中期防衛力整備計画(平成26~30年:24兆6700億円)」では、基幹部隊の見直しとして南西地域の防衛体制強化と日米安全保障体制の強化施策を示している。この中期計画に基づいて初年度(26年)の防衛予算の概算要求が出されているが、そのオープンな記述は透明性の模範であり、不透明性が指摘される中国国防費の説明の参考にしてほしいものである。
さらに、白書は多くの国と多彩な防衛交流や国際貢献を紹介しているが、肝心の日中防衛交流の実績はない。11月の北京APEC(アジア太平洋経済協力会議)で日中首脳会談が実現し、それを契機に両国間の防衛交流や協力が進むことを願うものである。
(かやはら・いくお)