英霊に誠を尽くす遺骨収集

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

来年は陛下パラオ行幸

感動的な学生ボランティア

 8月は戦没者の慰霊に一入(ひとしお)思いが深まる。終戦後69年、御遺族・戦友の方々の高齢化、少数化が進む中、戦没者慰霊は次世代・次々世代へと移り変わっている。そんな中で先日、天皇・皇后両陛下のパラオ方面への行幸が来年実施されるべく検討が始まった旨報道された。誠に有り難い御心である。さる慰霊行事の会合で90歳を超えた旧軍人の先輩が、「是非実現を」と万感の思いを述べておられたのが印象的だった。今回は戦没者慰霊のうち、遺骨収集について所見を披露したい。

 太平洋戦争戦没者の遺骨収集は、講和条約発効直後昭和27年より営々と実施されている。厚生労働省の資料では戦没者総数約240万柱、御遺骨収容数約127万柱で回収率53%である。この数値は着々と積み重ねてきた実績だが、80~90%と言われる先進諸国に比し異常に低い数値であり、国に殉じた英霊に対し日本人として全く申し訳のない数値である。

 数値の低い原因は多々ある。遺骨の多くが、フィリピン、南太平洋島嶼(とうしょ)の人口希薄な山岳・辺地にあること、特に末期における徹底した洞窟陣地戦、海軍を主体に「死して屍(かばね)を残さぬ」自爆思想が強かったこと、さらに大きなのは我が国の侵略性を誹謗(ひぼう)し、遺骨収集協力に消極的な国があり、遅々として進まないこと等々であるが、何と言っても大きな原因は、戦後長く蔓延(ばびこ)った我が国内の反軍・反戦の風潮が及ぼした戦没者慰霊の軽視にあったと考えている。

 戦没者の殆どは、一般人を含めて召集に応じた一般国民であり、左翼と言われる人たちが目の敵にした「軍部」ではない。終戦直後の混乱した状況では種々困難な事象はあったものの、戦後69年、経済的にも社会風潮的にも健全化して久しい。この度、両陛下のパラオ行幸の計画に関連し、その大御心に深い感動を持ち、戦没者慰霊、特に遺骨収集事業に国民的盛り上がりを期すべきであろう。

 遺骨収集の現状を述べてみたい。遺骨収集は厚生労働省が主管省庁となり、先述の如く昭和27年から行っている。遺骨情報に基づく収集計画により、予算を獲得、日本遺族会、大東亜戦争戦没者慰霊協会など慰霊関係法人を通じて毎年遺骨収集団を編成、現地派遣し、収集・慰霊事業を行っている。実際現地に赴き、大変な作業を行っているのは、遺骨収集NPO、戦友会・遺族会関係者、現役・退職自衛官、学生を主体とするボランティアなど心ある人々だ。

 なかでも学生を主体とするJYMA(日本青年遺骨収集団)、IVUSA(国際ボランティア学生協会)の積極的参加には、正直頭の下がる思いがする。先日、会合の休憩時間、学生参加者との会話時、「この事業に参加して良かったと思っています。アジアに向けて、歴史について目の前が開けた感じを有り難く思います。少々持ち出しの面もありますが、続けるつもりです」と爽やかに語ってくれた。是非とも彼らには将来大きく育ってほしいと心から応援する気持ちがこみ上げた。彼らの活動は、慰霊・遺骨収集に留まらず、現地社会との交流、民生的協力に及んでおり、是非、中長期的計画のペースを上げ、十分な予算を支出して欲しいものである。

 筆者は自衛官の出身であり、現職中はかなりの回数外国を訪問した。東南アジアではいわゆる「日本人墓地」「主要戦跡」で弔意を表わす行事にも参加した。それはそれなりの成果があったと考えている。しかし、退職後立場が変わって、私人、ボランティアの立場で慰霊巡拝を行い、数回にわたり東南アジア方面、マレー、シンガポール、ルソン、セブ、レイテ島の激戦地を回った。大変大きな感動と経験を得たが、最大の所見は「戦跡を巡拝するなら、20代の若い時代に見ておきたかった」ということである。

 帝国陸海軍が最後の決戦地としたレイテ島が、戦史を学んで予想した状況と異なり、「このような島だったのか」という大変衝撃的な所見、現地住民の誇り高い民族性など若い時期に知見しておけば、考え方も随分変わったのではないかと考えている。そういう意味からは前述の学生ボランティアの方々は、若くして貴重な体験をし、自己形成の大変重要な部分を吸収しつつあるのである。

 インターネットでJYMAのガダルカナル島「丸山道」の遺骨収集動画を拝見した。最も悲惨な戦場と言われる現場に挑む収集団の様子は感動的である。筆者の立場からは、自衛隊の幹部候補生は厳しい教程で訓練スケジュールはすし詰めであろうが、自前の輸送手段を有することでもあり、遺骨収集を体験するのも大変良い教育になるだろうと考えている。是非ご一考いただきたいものである。

 最後に、遺骨の残存する主な地域は、フィリピン35万、中国北部20万、中部太平洋17万、東部ニューギニア・ソロモン13万などだが、国内においても硫黄島にまだ1万を超える御遺骨が地中深く眠っていることを忘れてはならない。近年の収容遺骨数は、年間2000~3000といったオーダーであり、100年かかっても終わらないとの声もある。また、DNA鑑定の導入により否定される遺骨も増えている問題もあるが、行幸に関連し、遺骨収集に対する考えを刷新し、世代交代を乗り越えて、異国に眠る英霊に誠を尽くすべきであろう。

(すぎやま・しげる)