平和を守る安倍政権の選択

ペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学法学部教授 ペマ・ギャルポ

中国の動向に警戒心を

集団的自衛権容認は現実的

 「これで良いのか日本」というテーマで沖縄において大きな集会があるというお知らせとお誘いの電話を、長年お世話になっている友人から頂いた。一瞬、私は沖縄でも祖国のことを心配する人々がいるのだと思い安心した。テーマとしては確かに私も喜ぶぐらいの良いものであったが、次の瞬間、登壇者の名前を聞いてがっかりした。中心的な人物として名前が挙がったのは野中広務氏、鳩山由紀夫氏であった。

 勿論お二人とも日本の政治の中心におられた方々で、今でも政界においてそれなりの影響力を持っておられる方々である。お二人ともかつては自由民主党に籍を置いており、政治の中枢で活躍した方々である。しかし、近年彼らの言動は私から見ると、彼らの言動こそが心配の要因であり、このままで日本が良いのかと心配になっている。

 彼らに言わせると私とは正反対に今の安倍首相が進めている政治的動向が、問題視されている。両氏が主張するのは中国を刺激してはならない、集団的自衛権の行使をはじめとする安倍首相の一連の政治的方向性は日本をアジアの国々から危険視される要因となっているという立場を取っている。

 野中氏は恐らく戦争を知り、過去の日本のことをも知る立場にあった。鳩山氏の祖父は日本国憲法を改正し、自主憲法の成立を最大の目標にした自由民主党の重鎮であり、言うまでもなく総理大臣経験者であった。安倍晋三総理がしようとしていることは、結党以来の念願を少しでも実現しようとしていることである。

 今のアジア情勢において軍事競争を煽(あお)り、自ら軍拡化しアジアの平和的現状を脅かしているのは中国である。しかし、日本のメディアも鳩山氏や野中氏の見解に似通ったキャンペーンを展開している。そして本日(7月21日)のニュースによると安倍首相の支持率も3%ほど低下しているという。勿論、それでも鳩山氏の20%台の支持率に比べるとまだまだ高い支持率を維持している。

 だが、この数カ月、中国は積極的に70年代の日中関係のキャンペーンを再稼働し、その成果が世論に影響を与えているとすれば、むしろこちらの方が心配であり、「これで良いのか日本」と言いたくなる。日本のマスコミによる非現実的な憲法の解釈や、集団的自衛権=軍国主義というような解説こそが日本国民をミスリードするものであるように思う。

 日本国民は今のアジアの現状と日本を取り巻く国際環境を冷静に見極め、特定の国の思惑で動く政治家や評論家、ジャーナリストに対して慎重かつ現実的に見極める知恵と勇気を持って欲しい。

 単純な言い方かもしれないが、現に安倍首相の内閣が集団的自衛権を容認して以来、それまでに行っていた中国による日本の領海・領空への侵害は止まっている。また、南シナ海、ベトナム領海などからも撤退が報道されている。これは安倍政権の選択が正しかったことを証明しているように私には見える。言い換えれば安倍首相は中国が理解できる態度を取ることによって、自国とアジアの平和と安定を確保しようとしている。

 日本の主要メディアが自分たちの思惑に誘導するような取材をし、若者の考えを特定の方向へ導こうとしている様子も1970年代に似ている。喧嘩は相手がいてできるものである以上、今のアジアの軍事競争を煽っている中国の動向にこそ日本の平和主義者は、中国の友人として慎むよう助言すべきである。

 もうひとつ気にしていることはBRICSの5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)がこのたびIMF(国際通貨基金)やアジア開発銀行、世界銀行などに匹敵するような新開発銀行と外貨準備基金の創設に合意したと伝えられている。新開発銀行に関して中国の習近平国家主席は「国際金融におけるBRICSの発言力向上に有益なだけでなく、我々や途上国の国民に利益をもたらす」ものであると強調している。本格的に活動すれば新興国の資金が中国に集まり、中国から途上国に資金が流れるということになると言う人もいる。アメリカを中継しない資金が世界を駆け巡り、アメリカの国際金融秩序を揺るがすものである。

 また聞くところによると、その本部を上海に置く方向で進んでいるようである。中国は以前から世界銀行はアメリカ、IMFはヨーロッパ、アジア開発銀行は日本がトップになって運営していることに対し不満を漏らしており、アジア開発銀行のトップに関しては自分たちがその地位を日本から譲ってもらうのが自然だとクレームを続けていた。しかし、思うように行かなくなったのでこのような策に出たのだろう。

 もし、これを世界が許してしまったら中国は合法的な資金洗浄をする資格を得るようなことになるのではないかと心配しており、今後世界がますます中国に対し警戒心を持つべきであろう。