国防意識と防衛力の増強を

竹田 五郎軍事評論家 竹田 五郎

日本の自助努力は低い
平和の維持にはパワー必要

 米国議会上院は7月29日、東シナ海や南シナ海での中国の無法な威嚇行為を非難する決議を全会一致で採択した。決議は「米政府は、尖閣の日本の施政権を害するいかなる一方的な無法行為にも反対している」と指摘し、尖閣が、日米安保条約に基づく対日防衛義務の対象であることを明記した。議会が政府に同調して、尖閣防衛を明示したことは、中国に対し抑止効果を及ぼすであろう。

 しかし、わが国は、米議会の支援表明に安心して、自助努力を怠ってはならない。戦後、政治は、いわゆる吉田「ドクトリン」や「反戦平和主義」に幻惑され、国防意欲の涵養、防衛力の整備を軽視してきた。

 今年の全国戦没者慰霊祭での総理式辞から「不戦の誓い」の字句は削除された。マスコミは、これを平和に逆行するかのような報道ぶりであった。日本語の「不戦」は「戦わない」を意味するが、これは「戦争をしない」と「自衛のための武力行使をもしない」との二つに分けて論ずべきである。人は誰しも 平和を希求し、戦争を憎悪する。しかし、不正な侵略に対しての無抵抗は許されない。

 9月8日、首都東京が、平和の祭典オリンピック開催場に決定し、日本は歓喜の渦中にあった。しかし、これを喜ばず、あるいは、この機会に自国、あるいはグループの野望達成のために利用しようとする動きが起こるかもしれない。世界の実情は、憲法前文に述べるような正義に満ちた桃源郷ではなく、戦争の誘因は潜在している。

 国連憲章は戦争を否定している。しかし、平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為などの認定があり、非軍事的措置で不十分であれば、国連の集団的措置として軍の行動を認め、加盟各国に参加するよう義務づけている。また、国連が措置を取るまでの間、武力攻撃を受けた国は、個別的自衛権、集団的自衛権を発動し武力行使することを容認している。

 わが国を守るためだけでなく、世界の平和を維持するため、精強な防衛力は必要である。

 一般に、自国防衛努力の評価基準として、(1)軍事費対国民所得比、(2)軍人数対国民総人口数比、の両数値の多寡、および(3)国民の国防意欲、が挙げられよう。これらについて米国、韓国、フィリピン(比)、日本の数値は次の通りである(数字は%)。

 (1)について、米4・1、韓2・5、比0・8、日0・97。

 (2)について、米0・0049、韓0・0132、比0・0013、日0・0018(予備役を含めない数値。日本の予備自衛官定員5万は、他国の予備役に比較し極めて少ない)。

 (3)については、電通総研の世界価値観調査(2000年)によるが、「戦争が起こったら国のために戦うか」との設問を36カ国の18歳以上の男女1000人に対し行った結果である。「戦う」と答えた割合は次の通りである。米60、韓40、比83、日16。日本は最低の36位である。

 この実績を見れば日本の自助努力は低い。米国は、北東アジアの安定のため日本を最も期待していようが、それに応え得るであろうか。このような状況が続けば、米国世論は日本への協力に疑問を感じ始めるであろう。米国は世論の国とも言われるが、それが政治に影響を及ぼし、支援の熱意も衰えよう。

 中国が長期的な海軍力の整備とともに目指す第1および第2列島線の内海化は、換言すれば、対米防衛線である。日本は、米中両国にとって太平洋制覇のための最大の戦略的要域を占める。日本に中立を保証される可能性はないであろう。沖縄で宣伝する「基地無き平和の島」は幻想である。日本独力では、核戦力を持ち、装備の近代化、戦力の増強を続けてきた中国の進出を阻止することはできない。米国は財政再建のため10年間で約5000億キロの軍縮を断行しつつある。さらに、中東情勢は不安定で、座視することは許されないだろう。日本は米軍事力を補うためにも、自衛力の増強を推進すべきである。

 今年度防衛費は初めて11年ぶりに増額し4兆7538億円である。しかし、日本も財政逼迫し、8月の報道によれば、国民1人当たり約792万円の負債があるという。防衛費の急増は至難である。

 自衛隊は志願制度である。任務の特性上、若年定年制である。少子高齢化が進み、募集対象人口は減少している。さらに国民の国防意欲が低いため、増員もまた至難である。

 中国は与那国島や沖縄本島をも日本領土と認めてはいない。与那国島は石垣島から124キロ、台湾まで111キロで、わが国最西端にある国境の島である。人口1700人、警備は拳銃装備の警察官10名のみであり、領域保全は裸に等しい。ようやく政府も200名規模の沿岸監視隊の配備を認めた。自衛隊配備に対し町は10億円程度の迷惑料を要求した。戦後の教育が平和主義を歪曲し、国民の平和維持のための責任、義務を忘れた結果であろうか。

  政府は国防意欲普及に努力せよ。戦前は教育勅語において「一旦緩急あれば、義勇公に奉じ」と教え、国民は忠実に守りぬいた。なお自衛のため戦うための緊急事態法等の法整備をも推進すべきである。

(たけだ・ごろう)