江戸城天守を見上げる五輪を
伝承すべき日本の「宝」
世界に誇る文化遺産の再建
2020年の東京オリンピック――前回の1964年には池田内閣の末期で、競技場等の施設整備、東海道新幹線と東京モノレールの開業、東京国際空港のターミナル、首都高速、環七通りの整備等のインフラ、ホテルニューオータニ、ホテルオークラ等々の宿泊施設の増設・整備等々――は、まさに戦後日本を象徴する復活東京を世界に誇示し得るものであった。金メダルも、米(36)、ソ(30)、日(16)と世界に誇示し得る第3位の成績だった。
さて、今回は何が日本の目玉で、何を世界に発信するのか。そもそも、世界都市は、パリのヴェルサーユ宮殿、ローマのコロツセオ、ロシアのクレムリン宮殿、英のバッキンガム宮殿、ロンドン塔……それぞれの国の歴史と伝統・文化を代表するモニュメントに恵まれている。では、わが国には何が? 熊本城、姫路城、奈良の大仏、大阪城、名古屋城、掛川城、小田原城、若松城、弘前城等々数えきれない程だ。だが東京には? 今や宮城となっている江戸城だ。
ただ、天守閣が見当たらない! 実は、この天守閣は明暦の大火(1657年)で焼失してしまったのだ。その後、再建されずに今日に至っているのだが、オリンピック開催を目処に何とか再建したいものだ。
その関連なのだが、筆者自身が太田道灌第18代の後裔(こうえい)としての関連で、顧問として参加している「江戸城天守を再建する会」(認定NPO法人)がその天守を木造で再建したいと各方面に働き掛けているところである。「江戸城かわら版」(第33号)には、三浦正幸広島大学大学院教授による建地割図復元創作に基づく天守の南正面及び西側面の写真風の絵画が掲げられている。
以前「都市計画学会」に対し、当会による再建運動の正当性、妥当性につき客観的評価を求めるとともに、「日本経済研究所」には天守再建の暁における経済波及効果と雇用創出効果につき調査を依頼していたところ、その調査結果が、昨年11月に学士会館で開催された「NPO新法人発足記念集会」において披露・報告された。
そこでは、「東京は、このままでは、世界の都市間競争に勝ち残れない! 東京に、品格ある国づくりのシンボルをつくろう!」、「千代田、日本橋を中心に、歴史的『まちづくり』回遊ゾーンを作ろう」等の意見表明があり、また、「経済波及効果は、約1000億円、雇用創出効果は8200人」と見込まれている由。建築費用は350億円と試算(日本都市計画学会)されている。
確かに皇居の施設なので問題もあろう(筆者がかつて外務省在任中、宮内庁御用係を兼任して昭和天皇にお仕えしていた際、入江侍従長と「お城」についてお話ししたことがあった)が、今や「国家戦略特区」構想の活用も考えられ、さらに、観光振興という面でもユニークなヴェニューとして、例えばロンドンのケンジントン・パレスの如く、各国首脳を招いて江戸城での国際会議の可能性もあるのではないか。
かくして「江戸城」が世界に冠たるものたることを世界に知らしめることにもなろう。同時に、大地震後数年にして復興を成し遂げた日本の晴れの姿を世界に発信する機会ともなろう。今後6年の間に東京を如何に変革すべきかとの問題の中の一つに江戸城天守閣の問題があるのだけは確かだ。来るべきオリンピックには再建された天守閣の堂々とした姿を各国の選手のみならず、世界の人々の前に誇りをもって示そうではないか! 「任重くして道遠し」(曽子)だが、「千里の行も足下より始まり、九層の台も累土より起こる」(老子)のだ。まさに「イマデショウ」! 折角の歴史的遺産を生かすのは我々の責任なのだ。
江戸城天守閣は姫路城のそれの面積で2倍、体積は3倍の偉容をもち、しかも耐震技術を施された木造建築の最高傑作であったといわれている。この世界に類を見ない日本古来の伝統と文化とを代表する日本の「宝」として、後世に伝承し、日本人のアイデンティティーを取り戻し、さらに世界都市と言われる都市東京の、そして魅力あふれる国作り観光立国・日本のシンボルとするべきだ。
これまで、東京を訪れる外国人は下町は浅草の雷門などで粋な風情を味わい、徳川時代の文化的遺産は日光、古来の雅(みやび)な文化や建造物は京都に行かなければならなかった。これに、江戸城天守閣が再現したならば東京に歴史の厚みが増し、世界的な観光スポットとして注目度が上がることは疑いのないところである。
最近のわが国は、世界の濁流の中で、中華帝国その他の影に押されて、世界におけるかつての影響力を失いつつあるように見える。なにも嘗(かつ)ての日本のように政治・軍事大国の復活を目指す必要はないが、少なくとも文化面での復活・再出発を目指すべきだ。江戸城天守閣はまさにその象徴なのだ。
(おおた・まさとし)