武器輸出に新基準を定めよ

300元統幕議長 杉山 蕃

判然としない技術の境目

国際共同開発は時代の流れ

 政府の「武器輸出三原則」改定案が自民・公明の与党プロジェクトチームで了承された。誠に結構なことであり、昭和42年佐藤内閣によって提示された政府方針が47年の長きにわたって継承され、時代の変遷とともに使用に耐えなくなり、その都度、官房長官談話による「例外措置」として処置してきた経緯から、早期に現状に見合った新基準を成立させて欲しいと考えている。関連して所信を披露したい。

 武器輸出三原則が打ち出された昭和42年は、米軍供与の兵器で創設された自衛隊が、第1次・2次防衛力整備計画を経て、装備の近代化を求めて国産化を本格化させた3次防開始の時期にあたる。この時期、70年安保自動延長を控え、60年安保闘争の再現を期す左翼勢力・過激派等の動きも活発化した時期であり、当時の政治状況としては妥当な政策であった。

 あれから47年、時代が変わり、技術が大きく変化する中、既に使用に耐えない状態となっている。「武器」の定義も拡張され、武器を生産する設備、武器製造に係る技術、兵器システムの構成品に及び、兵器システム技術と汎用品技術の境目が判然としない時代を迎えて、新たな定義が必要である。

 さらに、ここ20年冷戦構造の崩壊とともに、自衛隊任務の国際化が進み、PKO、国際緊急援助、停戦監視などが日常茶飯事の業務となっている。C130輸送機は、これらの任務に最も活躍している部隊であるが、外地で飛行任務を実施するには、かなりの整備用部品を現地へ持ち込む必要がある。別送する整備用部品は武器輸出に該当するという滑稽な事態に直面したことも事実である。

 どうしても避けられない場合、官房長官談話などで取り繕ってきたが、既に20件を超える例外処置が計上されている。主たるものは米国との共同開発に係るものだ。今回の改定案に、一部の野党が持ち出したがる「死の商人」的なものはなく、日本が輸出する武器が紛争に使用されることを望んでいる国民はいないであろう。

 改定によるメリットは大別して三つの要素が考えられる。最大の問題は、兵器システムの国際共同開発の時代に直面して、先端技術能力の確保という意味から我が国も参画する重要性にある。平成26年度からの中期防衛力整備計画で28機を計画しているF35戦闘機は、時代の最先端を行く最新鋭のステルス戦闘機である。このF35は、もともとJSFと呼ばれた3軍共同開発プロジェクトに、英伊蘭など10カ国以上の国が何らかの形で開発費を分担する国際共同開発に発展した。一にかかって開発費の高騰に対応する処置であった。

 今後、この流れは先端技術開発の主流となると考えられ、優れた技術分野を持つ我が国にとって、伍していかなければならない喫緊の課題だ。米国との共同開発の形をとったF2戦闘機は、世界で初めて1次構造部材まで全てをファイバー化した野心作である。主翼の半数を我が国の技術的指導により米国が生産する形で推移した。

 この結果、米国は我が国のファイバー技術に信頼を置くこととなり、ボーイング787型機の主翼は、全て三菱重工業が生産するという大変な見返りを得た。米国との間ではBMD技術を始め、多方面で共同研究が行われているが、これらの流れを、西欧諸国等、我が国と国家理念を共有する先進諸国との間で進めることが今後ますます重要になっていく。

 第二のポイントは、これら防衛装備品に係る技術開発を、国益の多くを共有する先進諸国と協同することは、単に技術面に留まらず、国家としてのイメージに至るまで、我が国の存在感、信頼感を醸成する素地となる。そして、平和国家として、従来延々と実施してきた努力と相俟(ま)って、我が国の安全保障に間接的に寄与するところが大であることを主張したい。

 世界の軍事技術は米露二分の形が続いており、これに次ぐのが西欧諸国である。中国が急ピッチで追い上げようとしているが、軍備増強はともかく、軍事技術的には最先端の部分はロシア頼りの状態だ。こういった状況から見ても、尖閣問題を始めとする東シナ海問題に対応するためにも、技術交流を通じた我が国への先進諸国の信頼感は、是非とも必要であると考えるべきである。

 第三点は、今後ますます重要となる自衛隊の海外活動を、より円滑ならしめることだ。先述の航空機補用部品に限らず、自衛隊が海外で活動する上で、この種の問題は早急に解決しておかねばならない問題だ。

 かつて海峡安全確保に資するため、インドネシアに「巡視艇」が無償供与されたが、防弾ガラスを使っているから武器に該当するとか、陸上自衛隊が海外援助活動で使用した重機は現地に供与するのが通例だが、銃座が取り付けられるから武器に該当するとか理解に苦しむ点が多々存在する。他方、武装勢力等が日本製のピックアップトラックや4WD車両に機関砲を取り付け、兵員輸送車、戦闘用車両として使用しているのがテレビに登場する。何とも矛盾を感じざるを得ない。

 戦後69年、時の流れとともに軍事技術開発の情勢も大きく変わり、軍事と汎用技術の境目はますます判別困難な状況になっている。新しい時代に対応し、平和国家の立場を明確に、「厳正な」選択を前提に、国民が納得できる見直し作業を進めて欲しいと考えている。

(すぎやま・しげる)