靖国参拝問題解決のために
中国の3戦に日本劣勢
行動は慎重に広報は強化せよ
昨年末、安倍総理の靖国神社参拝について、中・韓両国は「日本帝国主義復活への道を開くためである」として、安倍総理を強く非難した。一方、同盟国米国の政府も「失望した」と、反対を表明した。これに対し、総理側近の衛藤補佐官は「米国の対応に失望した」と失言し、日米間の意思疎通も円滑を欠いていた。2月17日、ロイス米下院外交委員長(共和党)ら超党派議員団は、安倍総理らと会談した。日米国会議員連盟の日本側会長中曽根弘文氏は、靖国参拝は「不戦の誓い」という真意を説明したが、ロイス氏は「中国を利するのではないか」と、懸念を伝えた。なぜ中国を利するのか理由は不明だが、参拝反対の意思を暗示したものと推察できる。
私は大東亜戦争に参加し、幾多の戦友を失い、また、「いずれ靖国神社で再会しよう」と特攻隊員と固く握手して別れた。戦後、総理の靖国神社参拝を請願するデモ行進にも参加した。安倍総理の靖国参拝を喜び、米国政府の批判を意外に感じた。しかし、総理の参拝を当然とする意見を発表する日本を熟知する著名な大学教授もあるが、米国民の多くは靖国神社を正しく理解してはいないだろう。
米ヴァンダービルト大学日米研究協力センター所長のジェームズ・E・アワー氏は、産経紙「正論」欄に「米国は中韓にこそ『失望』すべし」と題して、次のような所信を述べている。「韓国や中国の指導者には、安倍政権の行動は1930年代の軍国主義への危険な回帰を映しているとまで言う者もいる。これらの指導者のうち……自国領土の1㌢でも日本に攻撃される可能性があると現実に恐れている者は一人でもいるであろうか。……ワシントンでは誰もそう感じてはいないと確信する」(1月16日付)。
ニューズウィーク誌1月28日号は、靖国神社について特集し、次のような項目について詳述している。要約すれば次のとおりである。①総理参拝で慰霊の場が、外交劇場騒ぎの核心にあるのは、欺瞞だらけの中韓の批判と、議論を避ける日本の怠慢にある②今の日本には、中韓両国がむき出しの感情をぶつけ、結果的に外交の道具と化した「ヤスクニ」と、外国からの批判にまどわされ日本人自身見失った「慰霊の場としての靖国」がある③従来、両国は総理の参拝には無関心だったが、今や、歴史教科書、慰安婦の問題とともに譲れない外交問題となっている。原因は「日本の1億無責任体制」にある④本当に悪いのは中国の方である。中国による過剰なこの参拝反対の裏には「普通の国」を目指す日本への警戒心がある。
本欄で「自主防衛を目指すべき情勢」(12月30日)と題して述べたように、米国は軍事費の軽減を余儀なくされ、さらに中東情勢の悪化により、東アジアの戦力強化は至難であり、オバマ政権は「世界の警察官」の地位を降りた。総理の靖国神社参拝が、中韓の反発を招き戦争に発展することを恐れている。
中国は、平成15年、「中国人民解放軍政治工作条例」を改正し、世論戦、心理戦及び法律戦の展開を政治工作に追加した。
平成21年来、我が国の、防衛白書は「軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段を重視しているとみられ、3戦と呼ばれる『世論戦』『心理戦』及び『法律戦』を軍の政治工作の項目に加えたほか、軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させるとの方針を掲げている」と明記している。靖国問題は、歴史、教科書、慰安婦、領土問題などとともに 反日攻勢に悪用されている。韓国は中国に便乗して、世界で反日宣伝を強めている。残念ながら日本の対応は鈍く、対3戦は劣勢である。解決への努力を怠り、放置すれば、国際的に孤立し、平和を享受しつつあるうちに、国力はメルトダウンしよう。
国として、国難に殉死した英霊に対し慰霊の誠を捧げるのは当然で、国際的常識である。が、総理の靖国神社参拝に他国が反対するのは内政干渉であるとして、今春の大祭や、8月15日に強行するのは、火種に油を注ぐようなもので国際的世論の反発も受けよう。政府は、靖国神社及び総理参拝について、根気よく、広く世界中に、特に米国や対日戦で被害を受けたアジア諸国の政府、国民に応報し、理解を求める必要がある。それには英語のみならず、現地の言語も必要であろう。
「勝てば官軍、負ければ賊軍」との諺がある。敗者であっても確証がある嘘に対しては抗議すべきであろう。また、国際問題であれば、公私の立場を明らかにしておく配慮が必要である。政府も慰安婦問題に積極的に対応するように決定した。また、中韓両国の3戦に対応するため、対外広報費も5倍に増額するようである。対3戦の戦士は、外務省関係者だけではない。国会議員、メデイア、外国と関係ある会社員、自衛官らで、司令部はNSC(国家安全保障会議)だろうが、その責務は重い。
(たけだ・ごろう)