中韓蜜月と日米韓協力の間 振り子はどこまで振れるか

山田寛

 UPFの会議に参加する機会があり、韓国を訪れた。

 北朝鮮の核、ミサイル実験に対し、朴槿恵政権が南北協力の開城工業団地を閉鎖した。中国が猛反発する米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備への公式協議にも踏み切った。そんな重大決断直後のソウルは、重苦しい空気を感じさせた。

 でも中国は、対北朝鮮制裁強化に非協力的だ。韓国政界やメディアには、「歴代最高だったはずの韓中関係が大転落」「新冷戦」「韓国も核武装議論を」といった、熱い言葉が現れている。

 開城で北に支払われた賃金の70%が、核やミサイルその他に流用されたとか。ならば、以前の実験後ももう少し北に談判してもよかった。朴大統領は国会で、90年代半ばから、歴代政権が北に30億㌦以上支援したが、返答が核とミサイルだったとし、これまでのやり方と善意ではダメだと演説した。

 

800

11日、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線付近で、荷物を積んで開城工業団地から韓国側に引き揚げてきた車両(EPA=時事)

北朝鮮、それ以上に中国に裏切られたとの思いを爆発させたような、強硬路線への急転換。THAAD配備に反対だった世論も、最近の調査では70%までが賛成と変わった。

 韓国人は熱い。振り子も激しく動く。2000年の南北首脳会談直後、私は日韓の研究所共催で、韓国で開かれた北東アジア安全保障研究会に参加した際、それを逆方向で実感した。雪解け熱が急上昇し、街では「金正日Tシャツ」が売り切れ。そんな中で、相手方の韓国国防省系列の研究所の姿勢が一変した。研究会をやること自体KY(空気が読めない)だ、まずかったとのムードが充満、こちらはとてもやりづらかった。

 親北的な盧武鉉大統領時代に造られた、南北軍事境界線(DMZ)のすぐ南の「統一を祈る平和公園」臨津(イムジン)閣。2007年に訪れた時、売店は、金正日グッズなどが並び、北朝鮮物産店南支店ともなっていた。

 今回訪れると、子供用の韓国軍野戦服、朝鮮戦争記念の装飾品、DMZチョコレートなどが、とって代わっていた。

 その朝鮮戦争で敵だった中国。最近、北との不仲、南との蜜月がしきりに言われても、北朝鮮存続はなお中国の「核心的利益」で、日米韓の中国説得スクラムも、容易に効かない。

 会議で、韓国国会外交・統一委員長の女性に質問した。「中国への傾斜を、修正せざるを得ないのでは?」。

 彼女は、一に経済関係、二に南北問題での中国の重みをあげ、そう簡単に大修正もできないとの立場を示したが、行間には、「また大国間で引き裂かれる」ことへの懸念が滲(にじ)んだ。

 だが韓国は、少なくともある程度、修正の振り子を振らざるを得まい。中国の覇権主義的「国益オンリー」路線を抑制するためにも、日米韓、または新総統が登場する台湾も含めた協力が、必要だろう。

 その重要な柱、日韓協力がどうなるか。一つのカギは、昨年末の「慰安婦問題」合意が、本当に「最終、不可逆的」になるかだが、かなり難しそうだ。元慰安婦支援団体などの反発は頑強だ。支援団体には親北勢力が確実に入っているという。今、南北対立ともからみ、彼らが日韓連携への抵抗を一層強める可能性は大きい。カギの中のカギは、日本大使館前の少女慰安婦像の撤去・移動問題だ。韓国政府が抵抗を抑えられないと、協力強化どころではなくなる。

 少女像は今日も、零下4度の雪が舞う中、暖かそうな帽子やマフラーをまとい、新しい花も供えられて頑張っていた。脇のテントで、支援団体関係者もさらに頑張ろうとしているようだった。

(元嘉悦大学教授)