北朝鮮 対韓テロ・工作 激化の兆候
北朝鮮が韓国担当部署の責任者に相次ぎ超強硬派を抜擢(ばってき)し、テロや工作で韓国に攻勢を掛けてくる可能性が高まっている。実際にサイバーテロの兆候も確認されているといい、韓国政府は警戒を強めている。(ソウル・上田勇実)
文化交流局のトップに金正男氏の従兄弟暗殺犯
責任者には超強硬派 4月の韓国総選挙に影響も
朝鮮総連通じて日本工作か
「金正恩・国防委員会第1委員長が最近、対南(対韓)テロに向けた力量を結集するよう指示し、対南工作を総括する偵察総局がこれを準備中だ」
先週、韓国国会で政府与党が開いた「緊急安保状況点検協議会」で情報機関の国家情報院からこのような報告がなされた。
北朝鮮は最高指導者・金正恩第1書記の命を受けて先月、4回目の核実験を強行。今月に入ってからは事実上の長距離弾道ミサイルを発射した。そして今度は韓国へのテロ・工作を指示。その強硬路線はまるで「暴走列車」だ。
南北関係を主務とする朝鮮労働党の統一戦線部で長く対韓政策に責任を持っていた金養建部長が昨年末、交通事故で死亡したとされる。その後任に選出されたのが軍出身で2010年の韓国哨戒艦撃沈や延坪島砲撃を主導したといわれる金英徹・偵察総局長だ。
金氏は党書記への就任も確認されており、「党書記、統一戦線部長、偵察総局長を全て兼任する強大な権限」(元韓国治安当局関係者)を背景にこれまで以上に過激に韓国を揺さぶってくることが予想される。
また情報筋によると、韓国国内で数々の親北朝鮮地下組織を構築したり、反北朝鮮勢力へのテロや拉致に関わってきた工作機関「225局」が昨年春ごろ、「文化交流局」に名称変更されていたことが分かった。
225局は金正日総書記が2月25日に組織名の変更を指示したことから命名されたが、さらなる名称変更は金第1書記が独自色を出そうという意欲の表れとも取れる。
同筋によれば、文化交流局のトップには金第1書記の異母兄、金正男氏の従兄弟である李韓永(本名・李一男)氏を韓国亡命から15年後の1997年にソウル近郊の友人宅前で暗殺した実行犯の一人、ユン・ドンチョルという人物であることも分かったという。
ユン氏の前任は在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)と太いパイプがあった姜周一氏。同局は朝鮮総連系の人物に日本で対韓工作を幇助(ほうじょ)させたことも明らかになっている。今後、朝鮮総連を通じた日本工作の行方も注目される。
韓国政府は北朝鮮が近々仕掛けてくると思われるテロや工作のうち、最も可能性が高いものの一つにサイバーテロを想定している。
別の情報筋は「原子力発電所や韓国電力などエネルギー関連機関のホームページへのアクセスを調べた結果、中国を拠点とする北朝鮮工作機関が使用するIPアドレス(コンピューターの住所)からのものが最近、多数含まれていたことが確認された」と話す。
サイバーテロは「ローコストで韓国社会を混乱させ、しかも証拠を残しにくい手段」(同筋)として北朝鮮が近年力を入れている。
韓国政府は北朝鮮による対韓テロ・工作の兆候に神経を尖(とが)らせている。朴槿恵大統領は「北がいついかにして無謀な挑発を強行するか分からず、テロなど多様な形の脅威に国民の安全がさらされている」(16日演説)と注意を喚起した。青瓦台(大統領府)の李丙琪秘書室長も与野党の党首に10年間国会で処理が保留されたままのテロ防止法案の成立に協力するよう要請した。
北朝鮮がこの時期、対韓テロ・工作で攻勢を掛ける理由は、36年ぶりに開かれる5月の党大会に向け内部を結束させるのが一つ。また4月実施の韓国総選挙に影響を及ぼす狙いもありそうだ。
韓国では過去、北朝鮮による武力挑発が政治情勢に与える影響を「北風」と呼んできた。以前は「北風」が保守勢力の団結をもたらしたが、近年は左派がこれを“悪用”し「戦争か平和か」と二分法的に有権者の恐怖心を煽(あお)り、票を伸ばす傾向も見られる。






