「京アニ」惨事、世界アニメ産業の大きな損失


 「けいおん!」「涼宮ハルヒの憂鬱」などのヒット作品を送り出しているアニメ制作会社「京都アニメーション」(京都市伏見区)の放火事件は、34人が死亡する大惨事となった。亡くなった方々に心から哀悼の意を捧(ささ)げたい。

ガソリンをまいて放火

 この前例のない凶悪事件は、日本のアニメファンだけでなくアニメを愛する世界の人々に衝撃を与えている。多くの人々はあまりの悲しみに、語るべき言葉を見いだせないでいる。

 亡くなった34人は全員同社の社員で、アニメ制作に励んでいた。世界のアニメファンが高く評価する作品を世に送り出してきた人々で、世界のアニメ産業にとって大きな損失である。

 さいたま市在住の容疑者(41)は、事前に携行缶二つにガソリンを購入、バケツのような容器に移し替え、同社の第1スタジオに侵入してまき、ライターで火を付けたとみられる。人々の心を癒やし、夢を提供し、勇気づける工房が、悪夢の舞台となった。

 現場で確保された容疑者は、同社に勤務歴はなく、「小説を盗んだので、液体をまいて火を付けた」という趣旨の話をしているという。作品を盗用されたと一方的に思い込み、無差別の殺戮(さつりく)に及んだ。

 スタジオ前の路上に落ちていた容疑者のものと思われるかばんには、複数の包丁も入っていた。一方的とみられる恨みが、このような恐るべき殺意と計画的な犯行にまで発展する異常さは、どうして生まれたのか。動機を含め、全容の解明が求められる。

 京アニの八田英明社長によると、同社には数年前から作品への批判やスタッフの殺害予告が相次いでいた。警察に被害届を出して対応していたという。また防犯のため、普段は玄関のシャッターを降ろしていたが、事件当日は来客の予定があり、降ろしていなかった。

 「ここまでする人がいるとは想像もできなかった」と八田社長は語る。確かに、誰も想像できない残忍さである。

 京アニの惨事が伝えられるや、世界のアニメファンから、インターネット交流サイト(SNS)のツイッター上などで、安否を気遣う声や哀悼の言葉が寄せられている。米アニメ配給会社「センタイ・フィルムワークス」は「私たちの心と思いは京都アニメーションと共にある」とツイートし、ネットのクラウドファンディングを開始。昨日午後4時の時点で1億4000万円を超えた。

 クールジャパンの中核を担う日本アニメ産業の、世界的な存在の大きさを改めて知らされた形である。

再建をサポートしたい

 才能豊かなクリエーターが多数亡くなったことで、世界的なヒット作品を送り出してきた同社が立ち直るのが簡単でないことは容易に想像できる。

 しかし、犠牲者が制作に関わった数々の作品も残っている。同社はアニメ業界で、いち早くデジタル化を先取りした会社である。日本だけでなく、世界のアニメ産業の至宝ともいうべき同社の再建をサポートしていきたい。