【社説】3回目接種 政府は「前倒し」を進めよ
新型コロナウイルスワクチンの3回目(追加)接種を職場で実施する「職域接種」の申し込み受け付けが始まった。3回目接種は、今月1日から医療従事者を対象に始まり、来年1月からは高齢者に行われる。「第6波」や変異株「オミクロン株」の拡大に備え、政府は「前倒し」接種を積極的に進めるべきだ。
海外で間隔短縮相次ぐ
ワクチンの効果は接種の4カ月後あたりから弱まる。2回接種した人が感染する「ブレイクスルー感染」が起きるのはこのためだ。接種が日本より先に行われた米国や欧州では、再び感染拡大が起きている。
イスラエルでの米ファイザー製ワクチンに関する研究では、追加接種した人の入院予防効果は93%、重症化予防効果は92%、死亡に対する予防効果は81%あったと報告されている。
現在日本国内の感染は低いレベルに抑えられているが、ワクチン効果と感染予防策が功を奏しているためとみられる。だが本格的な冬の到来を迎える中、効果が薄れれば第6波に見舞われる可能性は否定できない。
さらに、デルタ株よりも感染リスクが高いとみられるオミクロン株による感染者も国内で出ている。水際で抑えられているように見えるが、市中感染が生じる可能性も否定できない。オミクロン株については、世界保健機関(WHO)が市中感染の起きている地域ではデルタ株を上回るペースで感染が拡大するという見通しを示している。
こうした状況を見れば、3回目接種を前倒しして実施するのが、第6波を抑え、オミクロン株に備えるために有効であることは明らかだ。他の国々が2回目からの間隔を6カ月以内に縮めているのに、厚生労働省が「原則8カ月」とするのは理解に苦しむ。糖尿病などの持病のある人にとっては切実な問題だ。
地方自治体などから前倒しを要望する声が出て、ようやく後藤茂之厚労相は「国内の感染動向や自治体の準備状況、ワクチンの供給力を踏まえた上で前倒しの範囲や方法を示したい」と方針を転換した。しかし「ワクチンは順次輸入されるもの」との理由で「全国民を対象に一律に行うことは困難」と後ろ向きの言葉が続く。
追加接種を積極的に進め、先手先手で感染拡大を防ごうという意欲が感じられない。この約2年間のコロナ対策からの教訓が生かされていない。
オミクロン株などで感染が再拡大している英国では、2回目接種からの間隔を3カ月としている。イングランドでは追加接種完了の目標時期の1カ月前倒しを決めた。ジョンソン首相は「あなたのために3回接種を」とテレビで国民に呼び掛けた。
今月に入り新規感染者がこれまでで最多となり、オミクロン株感染者も100人を超えた韓国の保健当局も追加接種の前倒しを急いでいる。これまで60歳以上が2回目接種の4カ月後、59歳以下は5カ月後だったのを共に3カ月後に短縮した。
早いほどいいのは明らか
厚労省が職域接種の前倒しは考えないとしているのも理解できない。早ければ早いほどいいのは明らかである。そのための努力を惜しまないでほしい。