露首相択捉訪問、不法占拠の正当化を許すな


 ロシアのミシュスチン首相が北方領土の択捉島を訪れた。ロシア首相の北方領土訪問は2019年8月のメドベージェフ首相(当時)以来2年ぶりで、昨年7月に領土割譲禁止を明記した改正憲法が発効してから初めてだ。北方領土は日本固有の領土であり、ロシアの不法占拠正当化は断じて容認できない。

 共同活動で新提案へ

 これに先立ってロシアのプーチン大統領は、北方四島での日露の共同経済活動に関し、提案をまとめるようミシュスチン氏に指示した。択捉訪問は、提案の取りまとめに向けた極東視察の一環だ。

 提案内容の詳細は分かっていないが、プーチン氏は「前例のない性格のものだ」と述べている。ミシュスチン氏に北方領土を訪問させたことと合わせ、日本を揺さぶる狙いだろう。

 北方領土問題を含む平和条約交渉の打開に向け、プーチン氏と安倍晋三首相(当時)は16年12月の首脳会談で、4島での共同経済活動の協議開始で合意したが、協議は停滞していた。ロシアは自国の法制度の下での実施を主張しており、日本が受け入れられないのは当然だ。

 領土交渉をめぐる環境は悪化の一途をたどっている。ロシアは20年7月の憲法改正で「領土割譲禁止」条項を明記。プーチン氏は日露関係発展に意欲を示しつつも「憲法に反することはしない」と述べ、領土返還に否定的な立場を示している。

 北方領土は日本固有の領土である。しかし第2次世界大戦終戦直前の1945年8月9日、ロシアの前身のソ連は当時まだ有効であった日ソ中立条約を破って参戦し、日本が降伏した後の同28日から9月5日にかけて4島は全て占領された。これ以来、76年にわたってロシアの不法占拠が続いている。

 安倍氏は2018年11月の首脳会談で、平和条約締結後の歯舞、色丹両島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎として条約交渉を進めることでプーチン氏と合意した。事実上、4島返還から2島返還に舵(かじ)を切ったものだが、ロシアの姿勢はかえって強硬になっている。このままでは北方領土返還を実現することは難しい。

 2014年3月のウクライナ南部クリミア半島併合を見ても分かるように、ロシアは平気で力による現状変更を強行する国だ。日本は北方領土問題で妥協や譲歩を避け、4島返還の原点に回帰しなければならない。これは民主主義国家として、法の支配という普遍的価値を守ることにもつながる。

 4島返還を求め続けよ

 ロシア軍は北方領土の軍事拠点化を進めており、昨年には地対空ミサイル「S300V4」を択捉島に展開した。千島列島・北方四島は原子力潜水艦と水上艦隊が自由に太平洋にアクセスする要衝であり、ロシアにとっては他国を寄せ付けない防衛ラインとなっている。

 ロシアが北方領土問題で強硬な姿勢を取るのは、日本に返還後、そこに米軍基地ができることを恐れているためだ。しかし、これを言い訳にすることは許されない。日本はロシアに粘り強く4島返還を求め続ける必要がある。