辺野古移設、知事は国との対立煽るな
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に関し、沖縄県は国土交通相が翁長雄志知事による埋め立て承認取り消しの効力を一時停止したのは違法として、効力回復を求めた訴えを那覇地裁に起こした。翁長知事は辺野古移設に反対し、やめさせようとしているが、普天間飛行場の危険性除去と抑止力維持を両立させる唯一の選択肢だ。国と県との対立を煽(あお)ってはならない。
提訴に踏み切った沖縄
県は当初、年明けに国を提訴する方向で調整していた。しかし、総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」が県の審査請求を却下したことを受け、提訴に踏み切った。
国側も11月、仲井真弘多前知事による埋め立て承認を翁長知事が取り消し処分としたのは違法だとして、取り消し撤回を求める代執行訴訟を起こした。辺野古移設を進めるにはやむを得ない。
国交相の停止決定を受け、防衛省沖縄防衛局は既に移設工事に着手している。こうした国の対応について、県は今回の訴状で「沖縄県の自治権を侵害するものだ」と厳しく批判。住民の生活や自然環境など「公有水面埋立法で保護された(県の)利益が侵害される」と主張し、国交相決定の取り消しを求めた。
翁長知事は就任以来、一貫して辺野古移設に反対してきた。しかし頓挫(とんざ)すれば、「世界一危険な米軍基地」と言われる普天間飛行場が今後も長く存続することになりかねない。2004年には隣接する沖縄国際大に米軍ヘリコプターが墜落する事故が発生している。危険性除去は急務だと言える。
来年1月に行われる宜野湾市長選で再選を目指す現職の佐喜真淳氏は、普天間飛行場の一日も早い返還を最重要政策に掲げた。地元の市長としては当然だろう。返還後の跡地利用については「ディズニーリゾートの誘致を推進する」としている。
市長選には新人で元県職員の志村恵一郎氏も立候補を表明している。しかし、翁長知事や共産党など革新系の支援を受ける志村氏は、辺野古移設への断固反対を主張するものの、危険性除去に向けた具体策には触れていない。これで有権者の理解を得られるのか。
何よりも辺野古移設は日米が合意したものだ。「最低でも県外」と公約した民主党政権でさえ、結局は合意に回帰せざるを得なかった。実現しなければ、日米関係に悪影響を及ぼそう。
もっとも、在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄の基地負担は大きいのは確かだ。日米は今月、普天間飛行場沿いの道路用地など計7㌶について、17年度中の返還実現を目指すことで合意した。県民の理解を得るには、こうした負担軽減策を着実に進める必要がある。
政府は一日も早い実現を
一方、石垣市の尖閣諸島周辺では中国公船が領海侵入を繰り返している。中山義隆市長は脅威の高まりを受け、辺野古移設を容認している。
安全保障は国の専権事項だ。在日米軍の抑止力が維持されることは、沖縄の利益でもある。政府は辺野古移設を一日も早く実現すべきだ。
(12月28日付社説)