新型コロナ禍後の世界 中国の権力構造崩れるか

独裁の「強み」再評価の危険も

 東京五輪が来年に延期になるとともに「首都封鎖」が現実味を帯びるなど、新型コロナウイルス禍が深刻度を増す一方だが、この今の段階から沈静化した後の世界のあるべき姿を模索するのは論壇の役割だ。

 その観点から、新型コロナ特集を展開する各月刊誌4月号に目を通した中で、「中央公論」の鼎談(ていだん)「AI社会が直面する見えざる脅威 疫病という『世界史の逆襲』」は感染症による「時代の転換」を予感させ興味深かった。論者は東京大学名誉教授の山内昌之、東京大学名誉教授の本村凌二、作家の佐藤優。

 まず、歴史的に見て感染症が大流行した時期は「時代の転換点」になってきたとして、「梅毒の伝播」を例に挙げたのは山内だ。「文明的な抵抗力があり人口も多かった国やネーション(民族)は生き残ったが、その条件を欠く島嶼国家や民族などは、急激な人口減から、否応なく領土的・文化的自立を奪われていきました」と指摘。その上で、今の状況は「世界史における『疫病ウイルスの知られざる脅威』が現代に蘇った感」が否めないとした。

 現下の新型コロナ禍で、その脆弱性を露呈させたのが中国。「習近平体制の下で盤石の長期政権が築かれたかに見えていた『帝国』が、突如発生した現象によって、その権力構造を突き崩されかねない事態」に見舞われ、「対外的には、超大国アメリカと貿易戦争を繰り広げるほどに存在感を強め、国内でも『幸福な監視国』と揶揄されるほどAI化、IT化を進め、栄華を極めつつあった中華帝国は、『世界史の逆襲』ともいうべきものに、行く手を阻まれてしまった」というのが山内の分析だ。

 一方、本村は、山内とは「逆の方向性」の可能性があることを指摘した。「仮に中国政府が被害を最小限にとどめるような形でこの問題をうまく処理したとします。すると、今度は、社会主義型の独裁を見直すべきだ、という意見が出てこないとも限らない」というのである。

 さらに「現代の自由主義社会にも、多くの解き難い難問が突き付けられています。その処理に際して、習近平やウラジーミル・プーチンのような独裁的なやり方が、意外に通用するかもしれない。そんな『理解』が、世界に広がる契機になることはないのだろうか?」と、疑問符を付けながらも不吉な見方を示した。

 世界保健機関(WHO)や各国政府の発表を見ると、感染者数が中国を超える国が出るのは時間の問題となっている。中国政府は現在、「被害を最小限に食い止めた」とのイメージを世界に広めるための宣伝戦を仕掛け、また各国への新型コロナ対策支援を行っているのを見ると、本村の指摘が現実のものになる可能性は否定できないだろう。

 山内と本村の間に入り、佐藤は「初期の封じ込めに失敗し、中国国境を越えてウイルスが拡散した現段階において、最も有効な対策は、ワクチンの開発です。それをどの国がいつ実現するのか、というのは、大きなポイントになるでしょう。それによって、今、本村さんが提起された問いの結論が、左右されるのかもしれません」と述べている。

 ワクチン開発競争にも目が離せないが、最後に、本村がさらに気になる問題提起を行っている。ITやAIの飛躍的な進化によって、「新たな形の独裁が顔を出す危険性」についてだ。現状のままITやAIが発達したとするなら、その延長線にあるのは「ITやAIをベースにした『神』に、再び判断を委ねる人間たちで構成させる社会」かもしれず、「権力の側から見れば、他律人間を牛耳るのは容易です。デジタルを握った権力は、それこそ世界史に例を見ない絶対的な力を手に入れることになるでしょう。そうなれば、自由主義も民主主義も資本主義も、居場所を失うこと」になるという。

 新型ウイルス禍が沈静化した後、日本の対中政策を考える上で、忘れてはならない警告である。

 編集委員 森田 清策