台湾に刃を突き付け威嚇する中国の言い分を代弁する琉球新報社説

中国と台湾の軍事的緊張がこの40年間で最も高まっていると言われている。

風雲急を告げる情勢
 テレビのワイドショーで一時、「敵の出方論」が話題になった。日本共産党が隠し持つ革命路線のことで、革命が平和的になるか、それとも流血を伴うか、それは「敵の出方」で決まるというものだ。要するに黙って共産党に服従すれば「平和革命」、抵抗するなら「暴力革命」。強盗が刃(やいば)を突き付け「金を出せ、出さなければ殺すぞ」と脅している図である。どっちにしても自由と民主主義が葬り去られる。

 その刃を中国共産党が台湾に突き付けている。今月1日から4日にかけ中国軍機計149機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入し、軍事圧力を強めた。習近平国家主席は辛亥革命110周年記念大会で「台湾統一を必ず実現する」と気勢を上げている(各紙10日付)。台湾をめぐる情勢は風雲急だ。

 強盗の刃を容認するわけにはいかない。本紙は「台湾統一の威嚇は極めて危険」(6日付社説)、産経は「異常な軍用機進入やめよ」(8日付主張)と論じ、日頃は中国に甘い朝日ですら「何も言わず台湾の人々に脅威を与える。進入の既成事実を重ねて『常態化』していく。そんな手法で蔡英文政権を圧迫することは地域の安定を揺るがす。ただちにやめるべきだ」(7日付社説)としている。

 もっとも朝日は「そんな手法」(暴力的)に反対であって、違う手法(平和的)なら中国による統一(共産化)を容認するのか、態度は曖昧だ。

 鹿児島の県紙、南日本新聞は、台湾情勢は鹿児島にとって何を意味するのか、制服組トップを務めた河野克俊前統合幕僚長に話を聞いている(9月2日付)。河野氏は「好むと好まざるとに関わらず、台湾情勢が世界の安保の最前線だ。台湾と与那国島(沖縄)は110キロしか離れておらず、日本は第三者でいられない。有事になれば沖縄、奄美も戦域になるのは軍事的に常識」と警鐘を鳴らしている。刃は日本にも迫る。鹿児島にとっても他人事(ひとごと)ではない。

逆に自由陣営に矛先

 ところが、沖縄の地元紙、琉球新報は他人事である。中国の軍事威嚇よりも「日米英空母訓練 南西海域の緊張高めるな」(7日付社説)と矛先を自由陣営に向ける。「日本政府が本当に航行の自由を尊重する立場をとるのであれば、米国と一体となって南西海域の軍事的な緊張を高めるのではなく、平和な海のため協調的な外交を尽くすべきだ」。まるで中国の言い草だ。

 南シナ海では中国は国際法を踏みにじり軍事力で「領海」だと唱え、その刃を台湾から日本の南西諸島へと広げている。平和の海のため協調外交を促すなら中国に対してのはずだ。日米英に豪、オランダ、カナダ、ニュージーランドも加わっての演習は、中国の軍事侵出を抑え止める「抑止力」を保つためだ。

 それを社説は中国の言い分を代弁するかのように「(6カ国は)中国が大半の領有権を主張する南シナ海に移って、共同演習を実施している」と非難がましく書く。海上自衛隊の護衛艦「いずも」に米戦闘機が発着する試験が実施されたが、「憲法の専守防衛の原則に反するもので、容認できるものではない」と猛反対だ。さぞや中国の戦狼(せんろう)外交官が喝采を送っていよう。

大甘の仏研究所分析

 産経の三井美奈パリ特派員はフランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)の「中国の影響力作戦」と題する報告書を伝えている(6日付)。それによれば、中国は日本の防衛力拡大の阻止を狙い、沖縄に対して憲法9条改正への反対運動、米軍基地への抗議運動を支援している。どうやら琉球新報はそれを地でいっているようだ。

 報告書は、日本は他のアジア諸国に比べて中国の影響力を抑えているとし、その理由として「メディア業界は寡占が定着し、介入が難しい」と分析しているが、これは大甘だ。介入するまでもなく、中国の意向を忖度(そんたく)するリベラル紙が闊歩(かっぽ)している。強盗に刃を突き付けられれば、ハイハイと金を渡す輩(やから)である。

(増 記代司)