コロナ対応、台湾に学ぶ 防疫を安保と捉える
国民も一丸となって戦う
新型コロナウイルス感染の収束後、国際社会における対立軸となるのは、一党独裁の全体主義国家中国との関係の在り方だ。“中国リスク”の捉え方次第で、コロナ禍後の世界は大きく変わってこよう。
月刊誌5月号の中で、中国リスクを最も厳しく見る論考は、米大統領元首席戦略官兼上級顧問のスティーブ・バノンの公開インタビューをまとめた「中国共産党は人類にとって危険だ」(「Hanada」)だ。
バノンは「中国共産党には神がいません。彼らは完全な無神論者で、物質主義者です。彼らが繋がっているのは地球上の金と権力のみです。中国共産党はサタンの権化(ごんげ)です……だから彼らに死後の世界もないし、天国も、親切という考えもありません」と断じている。
中国共産党による人権侵害、言論弾圧の背景に唯物思想があるとみるのは、キリスト教国家の保守派論客らしい。明確な価値観を持つ者は、それと相いれない思想には当然厳しくなる。
一方、パンデミックの元凶と言える情報隠蔽(いんぺい)で、欧米から批判を受ける中国共産党とは逆に、感染対策で評価を高めている政権がある。徹底した水際作戦やITを駆使した情報提供などで、一定程度に感染を抑え込むことに成功している台湾だ。
ジャーナリストの櫻井よしこは、論考「優しさだけの日本流と訣別」(「正論」)で、台湾の対応を次のように紹介している。
「蔡英文総統は武漢ウイルス禍に見事に対応して国民の高い評価を受けた。なぜ、迅速かつ完璧と言うべき対応が可能だったか。蔡氏はウイルス問題を単なる衛生上の問題ととらえず、国家の安全保障問題だととらえて、軍も動員した。人の移動も罰金付きで容赦なく厳しく制限した。緊急時であり、不便にも不足にも耐えてくれと、国民に要請した」
こうした対応が可能となったのは台湾が中国と厳しく対峙(たいじ)している現実があるからだ。経済を優先させて中国に忖度(そんたく)するとともに、国家の安全保障の観点から感染症対策に取り組む姿勢が弱いことで、初動が遅れた日本とは、対照的である。
台湾がどのように防疫対策を実行していったかについては、台湾独立建国聯盟日本本部委員長の王明理がその論考「コロナから台湾守る『台湾人の誇り』」(「正論」)で詳しく述べている。
皮肉にも、台湾は中国の圧力から世界保健機関(WHO)に加盟できないことが幸いした。WHOに頼ることができなかったことから、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」が発表される以前の1月26日、蔡政権が独自に判断し湖北省から入国制限。2月6日には、全ての中国人の入国を制限するという迅速な行動を取った。
2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の恐怖を経験した住民が自発的な予防措置を取っていることも大きい。緊急事態宣言が発出されても、パチンコ通いをやめない人間が少なくない日本とは大違いである。前出の論考で、王が「台湾人の衛生観念は日本時代に後藤新平らによってもたらされたもので、今では世界一と言われる日本の健康保険制度に勝るとも劣らない国民皆保険制度が整っている」と述べたので、少しは救われるが……。
国民性の違いを指摘した識者もいる。その一人は東京大学大学院教授の阿古智子だ。「中央公論」の鼎談「どうなる? コロナ後の習近平体制」でこう指摘した。
「台湾の国民や市民グループは政府にかなり圧力をかけています。これに対して日本人は何かがあった時に協力体制を作っていく自発性はすごいかもしれませんが、政治に主体的に参加しようという国民が少なすぎます。……日本が国として強くなりたいのであれば、国民がもっと強くならなければいけない」
台湾生まれの評論家・金美齢も、安倍晋三首相の「一斉休校要請」に非難の声が上がったことについて「『また日本人の悪いところが出たな』と感じました。お上の判断に頼る一方で、指示されると文句を言う。何もかも政府の責任にして、自分たちは文句を言っているだけでいいとの甘えた態度です」と苦言を呈した(「新型肺炎騒動で露呈した『指示待ち』日本人、甘えの構造」(「Hanada」)。
台湾政府と国民が一丸となってコロナ禍を乗り切ろうとする背景には、中国からの圧力にさらされ続けてきたことで強くなった「台湾人である誇り」(王)があるのではないか。逆に言えば、誇りなき国民が国難を乗り切れるのは難しい。感染症対策だけでなく、対中関係を考える上でも、日本が台湾に学ぶ点は多い。
編集委員 森田 清策