韓国人若者の声 「反日」強制に抗議の高校生
左派による扇動に気付き始めた
元慰安婦、徴用工判決、自衛隊機に対するレーダー照射、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)などの問題で、日韓の軋轢(あつれき)が深刻化した一年だった。論壇でも、これらをテーマとした論考が目立ち、わが国に理不尽と思える対応を続ける文在寅大統領への反発や揶揄(やゆ)を込めながら、韓国政府を突き放すような内容が多かった。
保守誌は特にその傾向が強く、最新号でも「総力大特集 文在寅は習近平の忠犬だ!」(「Hanada」2月号)、「韓(から)の国は『嘘の国』」(「WiLL」同月号)などの見出しが躍っている。その一方で、日韓友好の道を探る前向きな変化の兆しも現れている。
前回のこの欄で取り上げたように、月刊誌の前号では、自由・民主を守るために両国の「連帯」を呼び掛け注目される「反日種族主義」(日韓両国で出版)を取り上げた論考が目を引いた。それに続き最新号では、日本製品の不買運動などから、日本人が抱く韓国社会のイメージとは違い、文政権を批判、また「反日教育」に抵抗する同国の若者に焦点を当てた論考が出てきた。
筆者の目に留まったのは「韓国高校生は『反日教育』に反対します」(「文藝春秋」1月号)、「ボクはこうして『反日洗脳』から解放された」(「WiLL」)、「『ヘル朝鮮』世代、韓国二十代の異変」(「中央公論」1月号)だ。
「文藝春秋」の論考では今年10月、「学校から反日行為を強要された」と抗議して「仁憲高校学生守護連合」を立ち上げた、同連合の代表とスポークスマンが反日教育の実態を勇気を持って語っている。仁憲高校はソウル市にある全校生徒500人の公立高校だが、代表によれば、同校は「反日マシーン養成所」なのだという。
その象徴的な出来事が10月17日のマラソン大会に発生した。「安倍自民党は滅亡する!」「日本の経済侵略に反対する!」と、生徒たちが叫び始めたのだった。
スポークスマンが説明する。「これは生徒が自発的にやった行動ではありません。先生からの強要です」「反日行為を強要するのは、生徒の人権を無視した暴挙です」
二人の説明では、日本製品の不買運動を含めた反日行為の強要は日常的に行われている上、学校は日本の話さえできない雰囲気に包まれている。このままでは被害を受ける後輩たちがさらに増えるので、それを食い止めるために同連合を立ち上げ、記者会見まで開いたというのだ。
もちろん、韓国の高校すべてで同じような露骨な反日教育が行われているわけではなく、同校ならではの特殊事情もあるようだ。スポークスマンの説明によると、同校は討論を重視し、サークルなどの課外活動を推奨する先進的な教育が特徴の「革新学校」。さらに、同校の教師の多くは、全教祖(全国教職員労働組合)に加盟する。「全教祖は左翼系の団体で、親北朝鮮的な考え方の人もいます」(代表)し、文政権を支持していることでも知られている。
同校ほどでなくても、少なからぬ高校で教師による反日行為の強要が行われているようで、各地の高校生が『全国学生守護連合』という団体をつくって、彼らへの支援を広げている。代表は「韓国にも僕たちのように、韓日関係を改善したいと願っている人や、いきすぎた反日行為に眉をひそめている人はたくさんいます。それを知ってもらいたいと思って、今回、日本メディアの取材を受けることにしたのです」と語っている。
現在の日韓関係を憂い、周囲からのバッシングを覚悟の上で、発言する勇気ある韓国の高校生の存在に、日韓の未来にほのかな光りを感じるが、彼らと交流する日本の高校生をどう育てるか、という課題も見えてくる。
一方、「WiLL」の論考は、日本人「KAZUYA」と、日本で活動する韓国人「WWUK」の政治系ユーチューバー同士の対談(登録者数=前者は約68万人、後者約30万人)。後者は今年、韓国の政治情勢と文政権に対する辛口の解説を日本語で発信し続けて注目を集めるようになったが、韓国のテレビ局からは「売国奴ユーチューバー」として取り上げられたという。
今月上梓(じょうし)した「韓国人のボクが『反日洗脳』から解放された理由(ワケ)」によると、ソウル生まれのWWUKは、親の勧めで中学生の時、オーストラリアに留学した。それまでは、韓国で普通の子供たちと同じように「反日教育」を受け「日本は韓国に悪いことをしていた」と学んだ。
ところが、オーストラリアで日本人留学生と知り合い、それまで持っていた日本人のイメージと全く違うと感じたことがきっかけで、日本の高校に留学。3年間の会社勤務の後、日韓問題を中心に情報発信を続ける。現在、日本に帰化申請中。
旭日旗の歴史にも詳しく、「日本人になったら、一度、旭日旗をデザインしたTシャツなどを着て韓国の街を歩いてみたいと思っています。危険は覚悟のうえです」と、なかなかの度胸の持ち主だ。
また、「韓国の縦社会、ピラミッド社会にうんざりしています。その上の層にいる人たち(既得権者)が、自分たちに都合のいい世界を政治的につくっていることが許せない」と、若者らしい正義感を交えながら、母国に対する素直な気持ちを吐露している。
対談で、WWUKは「文政権が反日政策を前面に出しすぎた結果、多くの国民が文政権とメディアの反日扇動に気が付いた」と、韓国社会の変化を説明。また、前出の「反日種族主義」がベストセラーになったことやネット情報もあって、「自分で真実の歴史に気が付く韓国国民が急速に増えています」とも語っている。
それでも、彼に対する母国からのバッシングは激烈で、「嫌韓野郎」「売国奴」といった暴言は日常茶飯事で、そんなコメントを寄せるのは「年代として多いのは、反日教育のピークだった四十代から五十代」という。このことからも、日韓の相互理解を妨げている一つに、韓国における反日教育があるのが分かる。
また、KAZUYAが「ただいがみ合うばかりで相互理解がなければ、日韓双方に何のメリットもありません。実は長い目で見れば、韓国は日本の敵ではないんです。より重要なのは北朝鮮であり、真の脅威は中国ですから」と強調すれば、WWUKは「僕は日韓友好の可能性を信じたいんです。隣国同士、協力し合うに越したことはありませんし、韓国が日本から信頼を取り戻すには時間がかかるとは思いますが、それでも両国が互いに協力することは必要です」と応じている。
「『ヘル朝鮮』世代、韓国二十代の異変」を寄稿した早稲田大学韓国学研究所招聘研究員の春木育美によると、現在の20代は韓国社会の中で最も日本に対する好感度が高い世代。「一方、二〇一九年に日本製品の不買運動が広がった時、最も積極的に参加したのは、ほかでもない二十代だった」
20代に限らず、若者層に広げて考えても同じことが言えるだろう。アニメや訪日などを通じて、日本を好意的に見ていても、反日教育や左派メディアによる不正確な情報の影響で、正義感の強い若者は、好意が反発に変わりやすい。韓国の若者層に向けた日本からの正しい情報発信の必要性を指摘したい。(敬称略)
編集委員 森田 清策










