わだかまり解く皇族訪問-ボリビア
「犬も通わぬ」サンフアン移住地
【サンフアン(ボリビア)時事】秋篠宮家の長女眞子殿下がこのほど訪問された南米ボリビアの奥アマゾンにあるサンフアン日本人移住地は、1955年に入植が始まったころ、同国では「犬も通わぬ」と称されるほど環境が厳しいことで知られていた。入植者には、移住政策を進めた日本政府に「だまされた」という思いがいまだに残る。
同移住地では、最初の入植から2年後に政府間協定に基づく計画移住が始まった。当時の日本政府の誘い文句は「土地50ヘクタールを無償提供」。しかし、到着してみると現地は分け入る隙もないジャングル。第1期移住者の養鶏業浅野みゆきさん(69)長崎県出身は「初めはヤシでできた収容所で暮らした」と述懐する。
ボリビア側が用意しているはずの道路や学校も見当たらなかった。同時期に入植したボリビア日系協会連合会の日比野正靱会長(80)岐阜県出身は「日本の外務省に抗議したが、『あなたたちは望んで入植したんでしょう』と言われた。今でも忘れられない」と振り返った。
退路を断たれた入植者は、日本的なやり方に活路を見いだした。森林の伐採などの重労働を分担、資金を出し合って学校や病院を建て、農協を組織して地道に開拓を進めた。いつしか移住地は米や小麦、大豆、鶏卵の同国随一の生産地に。平均農地面積は東京ドームの64倍に当たる300ヘクタール以上。今や「サンフアン」は同国のモデル農村として有名になった。
それでも、日本政府へのわだかまりは残る。日比野さんは「今は日本政府にも感謝しているが、最初にだまされたという感情はわれわれの中でなかなか消えない。そうした気持ちを癒やしてくれているのが皇族の訪問だ」と指摘する。これまでに眞子さまを含め4人の皇族が現地を訪れられた。「移住者を思い、忘れていないということを示していただいている」。若い世代がアイデンティティーに目覚める機会にもなっているという。
眞子さまと固い握手を交わした浅野さんは「かわいくて、知識あふれるすてきな女性でした。移住してもわれわれを忘れずにいらしてくれる。ありがたいです」と満面の笑みを浮かべた。