子宮頸がんワクチン「自分で決める」と言うも勧奨した「every.」

◆「お祝い」接種で被害

 子宮頸(けい)がんワクチンの副反応問題が今ほど表面化していなかった3年前、市の保健センターから予防ワクチン接種の案内が自宅に届いた。当時中学1年生だった次女を対象にしたものだったが、パンフレットを読んでも接種の必要性が理解できなかった。

 その上、予想される副反応が羅列してあり、「任意予防接種に位置づけられているため、万一健康被害が生じた場合は予防接種法の被害救済対象にはなりません」(市が加入している行政措置災害補償保険の対象となる)と書いていたので、親の判断で接種させないことを決めた。

 それを今読み返してみると、わが市の保健センターはなかなか良心的な内容を記してくれたな、と感心する。同じ時期、東京都内に住む中学1年女子の保護者に配られたパンフレットには「中学入学お祝いワクチン」「子宮頸がんから命を守るワクチンをプレゼント」と書いて、接種を勧めていたのだから、もし私が都内に住んでいたら、それに煽(あお)られて次女に接種させてしまったかもしれない。

 事ほどさように、専門的な知識を持ち合わせない一般人は行政や医療機関からの情報提供しだいでは、予防接種を行ったり、接種しなかったりと、まったく正反対の選択をしてしまうことは珍しいことではないだろう。

◆行政責任言わぬ医師

 それは報道機関が流す情報にも言えることだ、と自戒の念を抱いたのは、日本テレビ1月23日放送の情報番組「news every.」を見た時だった。この番組の中には「より健康で楽しく暮らすためのヒントを考える」コーナーがあるが、この日は「痛みの正体は」をキーワードとして、諏訪中央病院の名誉院長・鎌田實さんが子宮頸がんワクチンの副反応について取り上げた。

 まず、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、膝の痛みなど副反応を訴える少女が大勢いることについて、鎌田さんは「厚生労働省は専門医による研究班をつくり、全国17の医療機関で、患者をしっかり診察しました。そして、先月には、どうやらワクチンの成分の問題ではなさそうだということが分かってきました」と解説したが、副反応を訴える人々の間から、厚労省の審議会は痛みのケースに限定して審議したなどの批判が高まっていることには触れなかった。

 その上で、「(ワクチンを接種する少女たちは)精神的に不安になりやすい時期でもあります。親に言われて打ったという子も多い。本人も意識しないうちに、心理的要因が関係した可能性があるということが分かりました」と、痛みは心理的要因で引き起こされたとの見解を伝えたのだ。副反応としては、痛みのほかにも記憶障害などの症状もあり、原因を断定するにはまだ時期尚早と言えるが、そこを番組は無視したのだから、心理的要因説を受け入れた視聴者が多かったことだろう。

 それだけでも“偏向番組”と言えるのだが、さらに問題なのは結論部分。鎌田さんは次のように訴えた。「自分で決める。副反応のリスクも含め、自分で決めるということがとても大事だと思う」「(子宮頸がんを)予防するためにとても大切なワクチンだということが分かると、この副反応がもっともっと減るんじゃないか」。

 このワクチンは、安易に接種するものではなく、接種するか、しないか、慎重に判断しなければならないという主張なら、鎌田さんの意見に賛同するが、12歳の少女にそれを押しつけるのは無責任である。また、指摘したように、「中学入学お祝いワクチン」「命を守るワクチンをプレゼント」と、安易な接種を煽った行政の責任には触れずに「自分で決める」ことを強調するのは、当事者や保護者への責任転嫁と言っていい。

◆性行動リスク触れず

 番組の問題はもっとある。子宮頸がんが増えた背景には、性行動の低年齢化があることは厚労省も指摘している。したがって、若い女性たちは自己の性行動を変えれば、がん発症リスクを減らすことが可能なのである。

 その事実には触れずに、「実はこの予防接種の必要性は大変高い。毎年1万人が子宮頸がんになり、毎年3000人が亡くなる」と、接種を勧めるに至っては呆れてしまった。「自分で決める」と言うなら、接種しないこともりっぱな選択肢であることを訴えるべきであろう。

(森田清策)