ヒジャブを着たラッパーの衝撃


ウィーン発 『コンフィデンシャル』

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▲クリスマスの日、当方の仕事部屋から見た朝焼け風景(2013年12月25日、撮影)

 独週刊誌シュピーゲル最新号が届いたのでいつものように後ろのページから読みだした。死亡欄の前に小さなインタビュー記事が掲載されていた。エジプトの女学生でラッパーのMajam Mahmudさん(18)との会見記事だ。アラブでもラップ(rap)音楽があるとは知らなかった。それも女性ラッパー(Rapper)だ。ヒジャブを着て舞台で歌う彼女の姿はエジプト社会を驚かせたという。

 シュピーゲル記者が「母国での差別や性的ハラスメントについてどうして書くのか」と聞くと、Mahmudさんは「エジプトでは女性はもう耐えられないのだ。毎日がストレスだ。エジプトの次の革命は女性革命だろう」という。アラブ諸国では自動車の運転すらできないサウジアラビアの女性たちのことはよく聞いてきたが、エジプトでも女性は多くの迫害と差別を受けている。「90%以上の女性が性的ハラスメントを体験し、路上を一人で歩くことが危険と感じている」という報告があるほどだ。 
 「若い女性がガミガミと叫ぶと扇動だと受け取られるのではないか」という質問には、「怖くはない。誰も私を裁くことはできない。結婚が若い女性の最大の人生目的と考えているエジプト社会で何を期待できるのか。人が女性に『お前は処女か」と聞くのは堪えられない。なぜ、人は未婚の男性に『お前は童貞か』と聞かないのか」と単刀直入に答える。

 そして2011年のエジプトのアラブの春(民主改革)について、「エジプトではまだ本当の革命は始まっていない。社会の変化は体制の変化によってもたらされるのではない。先ず、人々が変わらなければならない」というのだ。この箇所を読んだ時、貧者救済に生涯を捧げた修道女マザー・テレサの同じ言葉を直ぐに想起した。テレサが語った言葉を18歳の若いエジプトの女性ラッパーがさらりと語っているのだ。

 最後に、「自分は女に生まれ、男でなかったことを残念に思ったが、今は違う。女性で生まれたことを誇りに思っている。なぜならば、女性は大統領になる子供を産むことができるだけではなく、自身が大統領にもなれるのだ」と答えている。驚くべき18歳だ。

 当方は2年前、中東会議でシリアの女性に会う機会があった。若いが弁護士として活躍している女性だ。食事をしながら話していると、彼女は突然、「私は11歳の時、結婚させられたのよ。相手は22歳の男性。両方の親たちが了解のもと、婚姻を約束したの。自分は勉強がしたかったので、学校に行き、それから米国に逃げていった。そこで勉強して弁護士になったのよ」(「当方が出会った中東の女性たち」2011年6月14日)という。驚く以上に、中東の女性たちが置かれている状況が欧米社会では考えられないほど大変だということだ。

 アラブ諸国、そしてイランでは女性たちは社会的さまざまな差別や迫害されているが、その一方、高等教育を受ける女性が多い。インタビューのMahmudさんの発言を読みながら、中東では今後、女性たちが主導的役割を果たしていくかもしれない、と強く感じさせられた。

(ウィーン在住)