北朝鮮とポル・ポト政権、政治的参加の類似と相違
北朝鮮の平昌五輪参加決定で、1978年のバンコク・アジア競技大会へのカンボジア・ポル・ポト政権の参加を思い出した。
大量虐殺で「アジアのヒトラー」とも言われた政権と似ていると言えば、金正恩・朝鮮労働党委員長は怒るかもしれないが、ポル・ポト政権は、核による対外脅迫などはしなかった。
それはともかく、二つの参加には類似点がある。
当時のカンボジアも国際非難を浴びていた。東部国境でベトナム軍の侵攻が始まり、危機が迫る中で、開催国タイや後見人の中国から強く働き掛けられ、急きょ参加を決めた。やはり完全な政治目的の参加だった。開会式では、選手団の先頭を歩く特別待遇を与えられた。
だが、そこから先は北朝鮮と相違する。
「スポーツなど革命前の腐敗文化」と決め付け、元選手を虐殺した政権だから、選手などいない。役人3人が役員と称し、カラスの様な黒い人民服姿でトボトボ歩いた。カラスでは拍手の浴び様もなかった。
芸術団などもあり得なかった。ある最高幹部が「北朝鮮はダメだ。子供に音楽、ピアノなんか教えている。我々の革命の方がずっと上だ」と言ったという。美女は負傷兵士と強制結婚させられていた。
子供も親と隔離され、飢えや虐殺もあった。一方で大人より頭の中に余計な知識がなく信用できるからと、子供兵士にされた。
北朝鮮の一般の子供も飢え、餓死もした。平壌に住む上流階層の子供は違っただろうが、以前平壌を訪れた時、「彼らも大変だなあ」と思ったことがある。
外国人訪問者、観光客向け“目玉商品”の万景台学生少年宮殿を見学した。豪華な建物の中で、選抜された子供たちが芸術、スポーツ、科学の沢山の活動に取り組んでいた。
セミプロの様な歌劇団も、美術作品も確かに高レベルだった。「90%大人の手による作品を、客の面前で仕上げる動作を続けているだけではないか」と疑った旅行仲間もいた。だが私が一番気になったのは、どの子も、客に向け懸命にスマイル=作り笑いを繰り返している様に見えたことだった。
作りスマイルを強いられる子供たち。ポル・ポトの子供たちよりどれほど幸せと言えるだろうか。
平昌五輪の北朝鮮の主役は応援団、芸術団だ。エリート美女たちが、子供時代からの筋金入りのスマイルを顔いっぱい広げるのだろう。韓国の文政権はもうメロメロだ。国民には合同チーム批判も出ており、統一旗にブーイングも少し飛ぶかもしれない。でも結局は赤いチマチョゴリ狂騒曲に飲み込まれてしまうのだろう。
ポル・ポトは誤っていた。歌舞音曲と美女の作りスマイルは、革命や独裁政治の強力な武器になる。北朝鮮は権謀術数で裏打ちされた政治ショーだが、彼らは空っぽショーだった。
アジア大会の18日後、同政権は打倒された。その後、指導部はタイ国境地帯に潜り内戦に突入、森の中で記者会見を行った。その時になってポル・ポトらは、暗黒イメージ払しょくのため不慣れなニコニコ作戦に転じ、懸命に作り笑いをして私たち記者を迎えた。悲しいかな、おじさんたちの付け焼き刃の笑いはアピール力ゼロだった。
南北平和ムードは良いが、北朝鮮に最も必要なのは、国際ルールやマナーを順守する精神だ。それなのに唐突で五輪憲章も踏みにじる、これぞ“ザ・政治利用”の参加。無理と作りスマイルが通れば、北朝鮮は核を抱えたまま絶対変わらないだろう。口惜(くや)しかったら、地方の子供やコッチェビ(浮浪児)を集めた応援団を送ってほしい。その応援団なら、私たちも応援する。
(元嘉悦大学教授)