パリ協定の“常任理事国” 、中国より日本が務めるべきだ
今年夏から秋にかけ、世界中に激しい自然災害や異常気象のニュースがあふれた。「史上最悪」「数十年ぶり」といった形容句があふれた。米国はハリケーンと山火事のラッシュで、自治領プエルトリコは、9月に続き、10月にも過去100年来最強のハリケーンに襲われ、45人が亡くなった。
10月にカリフォルニアのワイン産地をなめ尽くした大火事では40人、6月と10月に欧州のポルトガルを見舞った特大の山火事は100人と、ともに山火事では最大級の犠牲者を出した。
大集中豪雨・洪水は、10月だけでも世界で約20件発生した。8月半ばのネパール、インド、バングラデシュ3国の大洪水の死者は、500人以上に上った。
その一方では干ばつだ。国際環境団体によれば、167の国が砂漠化問題を抱え、それが干ばつで悪化している。干ばつは静かにだが、他の全ての天災を合わせた以上の死者や避難民を生んでいる。
日本も九州北部豪雨など記録的災害を被った。
ドイツの研究団体「ジャーマンウォッチ」が公表した「世界の気象リスク指数2017」は、1996~2015年の気象災害の損失をもとに危険指数をまとめているが、日本は179カ国中危ない方から96番目である。
今年特に増加した異常気象が、どれほど密接に地球温暖化と関係があるか。即断はできないが、「密接」と見る専門家が多い。台風、ハリケーンは、海面の水温上昇をエネルギーにして発達する。海面水温は雨量も左右する。山火事も、雪融けが早く、乾燥度が高いと燃えやすい。海面上昇は低地帯の洪水をもたらす。
日本の気象庁の研究所は、温暖化が進むと、日本の南海で巨大台風が、現在(10年に3回)の1・5~3倍に増えると予測した。米科学アカデミーの報告書は、2030年以後、ニューヨークの大洪水が、5年に1回発生する可能性があると警告した。
今ドイツのボンで、国連気候変動枠組み条約の第23回締約国会議(COP23)が開かれ、昨年11月に発効したパリ協定(2020年以降の温暖化対策の枠組み)の細則作りへの協議が行われている。
だが、トランプ米大統領は協定脱退を表明し、グテーレス国連事務総長は、このままではパリ協定が掲げる温室効果ガス削減など全く不可能と、強い警鐘を鳴らした。
ところが、そんな状況なのに、以前の「京都議定書」採択で主役を務めた日本は、パリ協定の交渉ではどうも影が薄い。協定発効時、日本は批准手続きが遅れ、直後のCOP22に正式参加できなかった。今年9月にカナダで開かれた気候変動閣僚級会合の主催者も、カナダ、中国、欧州連合(EU)だった。
協定は、各国が2030年までのガス排出削減目標を提出するとしているが、日本の目標「2013年度比26%減」は、消極的だと不評らしい。日本は原発再稼働の行方も不透明で、大胆な削減目標は決め難い。野党や左派メディアは、あくまで反原発、脱原発第1のようだ。
中国はもう、「われこそ協定の擁護者」の顔をしている。だが、知見も技術も豊富な日本も、もっと運転席の先頭に立つべきではないか。
中国は気候変動会議の“常任理事国”に相応(ふさわ)しくない。最大排出国で新興国代表だから、協定の中で大いに汗をかき、努力してもらいたい。だが、国際法や人権を軽視し、環境汚染で国民の健康も軽視してきた国に、21世紀の地球市民の生命を護(まも)る主役は任せられない。気候変動枠組み条約とパリ協定を、覇権主義超大国として君臨するためのツールにされるのは、御免である。
(元嘉悦大学教授)