「人道上戦後最悪の危機」

飢餓地帯支援も忘れまい

山田 寛

 北の独裁者の空(むな)しい高笑いを乗せたミサイルが、日本上空を乱れ飛ぶ。防衛体制を最大限強化しながら、だが地球の向こうで死にかけている生命も防衛したい。

 「2000万人以上が飢餓に直面している。140万人の子供が超栄養不良で、すぐ助けなければ多くが餓死する。イエメンでは、5歳未満児が10分に1人死んでいる」。先ごろ、米国に本拠を置く8大国際救援組織が共同でこう訴え、緊急支援を呼び掛けた。

 国連当局者は「2次大戦後、人道上最悪の危機」とまで表現する。

 特に危機に陥っている赤信号組は、中東のイエメン、アフリカのナイジェリア、南スーダン、ソマリア。近隣の黄信号組も合わせると10カ国という。常に干ばつ・飢餓に見舞われている地域である。だが、今年「人道上最悪」とも言われるのは、飢餓の要因が人災=内戦や外国軍介入、テロだからだ。

 中でもイエメンは、戦禍+飢餓+コレラの3重苦。一昨年来、政府とシーア派武装勢力の内戦が続き、サウジアラビアなどが政府側支援で介入し、猛爆撃を行ってきた。国際空港も最大の港も病院も橋も道路も学校も破壊し、空港や港は封鎖もして、国際救援物資の多くの輸送を妨げた。約450万人の母子が食糧を待ち続けている。そこにコレラが大発生し、過去3カ月で2000人が死亡、毎分1人の子供が新規感染している。

 世界最貧国、南スーダンの内戦では全人口の4分の1に当たる300万人以上が難民・避難民となった。日本では、国連平和維持活動(PKO)参加の自衛隊の日報問題ばかり騒がれた後、自衛隊は撤収した。現地では、人権団体が「生き地獄」と形容する事態が続いている。

 ナイジェリアはアフリカ1の大国だが、「イスラム国」(IS)の弟分の過激派集団「ボコ・ハラム」が、北部地域で殺戮(さつりく)、拉致、自爆テロを頻発、同地域を完全な飢餓地帯にした。難民・避難民が170万人。190万人が緊急支援を要し、9万人の幼児の生命が危ない。

 同集団は今年、活動範囲を隣接国に広げ、ニジェールなども飢餓に襲われている。

 30年前、私は飢餓取材でニジェールの田舎を訪れた。ある村落で、避難民キャンプまで歩けない老人4人だけが残り、唯一の食料、少量の瓜をゆでていた。遠来の客よ、ぜひ食べてくれと言う。遠慮しきれず口に入れた。アフリカ人の優しい“おもてなし”心が、舌と胸にしみた。その孫、曾孫(ひまご)が今また苦しんでいる。

 しかし、世界には「北朝鮮」に加え、ハリケーン、水害、地震などの災害もあふれている。トランプ米政権の国内対応が別の嵐を呼び、日本にも“モリカケ疑似台風”が、長く居座った。飢餓への国際緊急援助の集まりは悪い。

 トランプ米国は、イエメンでのサウジなどの戦争を裏で支える一方、対外援助予算はできるだけ削減したいようだ。中国の援助の多くは、「中国のため」「人間不在」である。西欧は、難民・移民の受け入れ問題を抱え続ける。

 だから、緊急・人道支援を含む「人間有在」援助で、日本が主役を務めなければならない。

 外務省の来年度予算概算要求では、政府開発援助(ODA)は前年比約13%増の4897億円。ODA削減という河野外相の持論は、今回は反映されなかったが、20年前の半分以下である。同外相は、外交の柱として「日本らしさ」を掲げるが、今後ODAを減らせば、それも発揮できない。対テロでも対ミサイルでも、脅しにひるまず平常通りやるべきことをやりたい。対飢餓緊急援助にもより熱心に取り組みたい。

元嘉悦大学教授