中韓の若者に見てほしい、靖国「遊就館」の花嫁人形

山田 寛

 8月のこの季節には、自分が訪れた戦没者や戦争犠牲者の墓地、追悼施設などの情景が目に浮かぶ。米ワシントンのベトナム戦争戦没者慰霊碑、同郊外のアーリントンや仏ノルマンディーの米軍墓地、ベトナム戦争時の南ベトナム政府軍墓地、カンボジアのポル・ポト時代の虐殺跡の博物館、中国の南京虐殺記念館……国内では、靖国神社、知覧特攻平和会館、沖縄の平和の礎(いしじ)など。反日的記念館も含め、死者の霊に首(こうべ)を垂れ、平和を祈ったものだった。

 静かに眠る霊ばかりではない。南京記念館の万人坑は、遺骨が地面に意図的に散りばめられていた。カンボジアの虐殺博物館では、骸骨を国土の形に積み上げて、どぎつい地図を作っていた。共産国家や専制国家では、政治宣伝の役割を何十年も担わされて、遺骨も忙しい。

 日本ではとにかく死者を弔う。

 2001年、海上保安庁巡視船と交戦後自爆し、乗組員10人とともに水没した北朝鮮の工作船兼覚せい剤密輸船は、引き揚げられた直後、日本財団の「船の科学館」に展示された。当時の日本財団会長、曽野綾子氏が「九州南西海域で沈んだ朝鮮民主主義人民共和国の若者たちに捧げる」との献辞を添えていた。

 北朝鮮であれ、国に生命を捧げた若者たちを慰霊する。敬虔(けいけん)なクリスチャンの曽野氏らしいが、これは論議を呼ぶだろうと思った。だが、あまり呼ばなかった。

 米国でも、ハワイ真珠湾攻撃中に戦死した日本人飛行士の勇気を称(たた)える石碑を、米軍人が建てている。

 私は右翼ではないが、2000年代、大学で国際交流担当の教員をしていた時、学生たちによく、「海外旅行に行ったら、できれば軍の墓地や慰霊施設を訪れるよう」勧めた。墓石の列を見たら“極楽平和トンボ”の日本の若者も戦争のむごさを知るだろう。

 一方で、以前この欄でも少し触れたが、中国人留学生を靖国神社に連れて行った。

 ある正月、「靖国反対でもよい。1度見てはどうか」と13人に声をかけた。「僕が行ったらペンキをまきますよ」と、拒否する学生もいた。急だったこともあり、参加者は3人だったが、皆学習意欲旺盛で、境内の資料館「遊就館」の展示も真剣に見ていた。

 それとは別にゼミの実習で同神社に行った時、中国人ゼミ生2人もちゃんと参加した。

 私自身、遊就館で何体もの花嫁人形を見た時ほど、戦争の哀(かな)しさを痛感したことはない。結婚も恋愛も知らずに死んだ息子や弟が、せめて天国でこの花嫁を迎えてほしいと、母や姉が供えた人形である。反日宣伝の「『性奴隷』大好き日本兵」イメージとは、全く異なる息子や弟だったろう。中国は「日本は歴史を正視せよ」と言うが、私たちは正視するからこそ、靖国や知覧に行く。

 訪日外国人観光客、留学生は急増中で、今年1~6月の観光客総数は約1376万人、1位は韓国人で340万人、2位中国人328万人。外国人留学生(昨年度)は24万人、1位中国9万8500人。外国人、特に中韓の若者に、日本の慰霊施設を訪れ、平和への強い思いに触れてもらいたい。

 「歴史戦」は10年前より厳しい。強引に靖国に誘ったりはできない。しかし、外国語の観光ガイド(ネット、ブック)を充実させ、私の様に思う教員が留学生にきちんと説明し、勧めたらどうか。「何でも見てやろう」という若者は、中国にも韓国にも少なからずいるはずだ。

 いきなり靖国や知覧が難しいなら、沖縄の平和の礎やひめゆりの塔などを訪れてほしい。いや何より、あの花嫁人形たちだけでも、見てもらえないかと思う。

(元嘉悦大学教授)