メモの功罪
記者は書き記すことが宿命の職業だ。記者研修の頃から書いた取材手帳が数十冊になる。何回か捨てる機会があったが、結局、一緒に引っ越した。結婚式の写真のように、自宅のどこかの箱に保管されているはずだ。近ごろ、テレビニュースで見る記者たちの取材の様子はどこか生硬(せいこう)な感じがする。ニュース源の人物を屏風(びょうぶ)のように囲んでいる様子は昔のままだ。しかし、記者たちは皆、スマートフォンをその人物に向けている。ペンで手帳に書くことよりも録音する方が簡単だろう。とはいえ、再びノート型パソコンに録音を書き起こすので“書き記す”役割が変わったわけではない。
朴槿恵政府の官僚たちも書き記すことが宿命だった。青瓦台(大統領官邸)の首席秘書官や閣僚たちは会議のたびに懸命に書き記した。手で記録した者だけが生き残る“書記者生存”だ。朴大統領の一方通行式の疎通をこれほど正確に表現した表現はない。首席秘書官や閣僚が生き残るために記したメモは今や、朴大統領にとってブーメランとなっている。青瓦台の金英漢・元民情首席補佐官と安鍾範・前政策調整首席秘書官の手帳がそれだ。現在、弾劾審判と特別検察官チームの取り調べの証拠として使われているので、“メモの裏切り”とでも言おうか。
“書記者”が本当に生かすこともある。先に本紙とインタビューしたキム・グァンス元金融情報分析官。2011年に順風満帆の経済官僚から被疑者に転落した。釜山貯蓄銀行事件で280日も拘置所で過ごした彼を救ったのは、行きつけカフェバーのマダムのメモを残す習慣だった。マダムは客がどのテーブルに座って何を注文し、何で支払ったのかを一つ残さず書き記していた。その記録によって、検察がカネを受け取ったと発表した日にこのカフェバーで後輩たちと酒を飲んでいたことが立証され、無罪を勝ち取ったのだ。
潘基文前国連事務総長も朴淵次・元泰光実業会長から23万㌦収賄した疑惑に反駁(はんばく)するため日記帳を持ち出した。潘氏が05年5月、外交部長官公館でカネを受け取ったといわれる日の記録だ。朴元会長を否定的に評価した内容が出ており、名前も空白だ。潘氏側の論理は「23万㌦をもらった人物をこんなに酷評するのは常識に合わない」というものだ。日記帳は収賄疑惑への反対証拠になり得ないとの指摘も一部出ている。いずれにせよ、日記であれ手帳であれ、書き記す習慣は美徳だ。自分に過ちがなければ裏切られることはないからだ。
(1月25日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。