処方箋なしで医薬品購入


地球だより

 昨年11月、国際陸連(IAAF)がロシア陸連に対し、組織的なドーピング違反が横行していると認定し、暫定的な資格停止処分を科した。処分が解除されない場合、ロシア選手は夏のリオデジャネイロ五輪などの陸上競技に参加できない。ロシア人の間から「やっぱり出場は無理かな」なんて会話が聞こえてくる。

 一方で今年3月には、女子テニス元世界ランキング1位のマリア・シャラポワ選手のドーピング問題が浮上した。ただ、ロシア人の受け止め方は「ショックな事件」というものではなく、処分を強行しようとする欧米への不満や反発、そしてシャラポワ選手への同情である。

 それは、シャラポワ選手がロシアの英雄であるだけでなく、ロシアの人々がソ連時代から、エリートスポーツ選手の養成を身近に見てきたからだと思う。保育園の頃から親の期待を受け、スポーツ英才教育を受けながらプロを目指す若者たちは、厳しい特訓と競争に打ち勝つため、体作りは半端ではなく、栄養補給剤や筋肉増強剤の摂取はごく普通だという。

 プロのテニス選手を目指していたが、故障で引退した友人によると、賞レースで薬物を使用することなどロシアでは当たり前。「周りがそうなんだから、自分もそうするしかないじゃないか」と言う。

 ところで、ロシアに住んでいて驚くことは、ロシアの人々が、もしかしたら風邪かもしれないな、ぐらいの状態で当たり前に薬を服用するということ。薬局では処方箋なしで薬を購入できる。選手が鎮痛剤を自分で注射する姿もテレビで見たことがある。

 医薬品が身近にあり、ちょっとのことで薬を飲む生活をしている。これが、ドーピングに対する罪悪感を麻痺(まひ)させる一因なのかもしれない。

(N)