「イスラム国」の背後に潜むもの


 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」は8月21日、シリアのKarjatain で西暦4世紀ごろ建立された修道院 Mar Elian をブルドーザーで破壊した。シリアの砂漠に立つ修道院はこれまで多くの紛争や戦闘を目撃してきたが、生き伸びてきた。しかし、ISが Karjatain に侵攻すると2週間も経たずに、完全に破壊されてしまった。ISは修道院破壊の理由を、「同修道院には3世紀のキリスト教の殉教者聖人エリアンが祭られている。これは神の神性を蹂躙するものだ」と説明している。要するに、「偶像崇拝」というのだ。また、シリアのパルミラ( Palmyra )の遺跡管理元総責任者であった考古学者ハリド・アサド氏( Khaled Asaad、82)がISに公開斬首されたばかりだ。

 ISはシリアだけではなく、イラク内の占領地でも世界的遺産を次々と破壊している。ISは2月、イラク北部のモスル博物館に収蔵されていた彫像を粉々に破壊し、古代ローマの主要都市ハトラでも破壊を繰り返した。4月11日には、イラク北部にある古代アッシリアのニムルド遺跡を爆発している。ニムルド遺跡はアッシュールナシルパル2世が紀元前879年から建設したアッシリアの首都の王城跡だ。

 ISは過去の文化遺産を破壊する理由として常に偶像崇拝をあげ、神を冒涜していると主張する。ISにとって、神は無形の存在であり、その神性を具象化することは神が最も忌み嫌う行為というわけだ。

 著名な神学者ヤン・アスマン教授は、「唯一の神への信仰( MonotheISmus) には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的な唯一の神を信じる者は他の唯一神教を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとする」と説明し、実例として「イスラム教過激派テロ」を挙げている。その暴力性は具象化した世界への憎悪に向かい、その破壊へと駆りたたせているわけだ。

 ここで、「唯一神教は文化を構築できるか」という問題を提示したい。全ての文化は具象世界で展開され、表現されている。だから偶像崇拝を忌む唯一神教は文化を創造できないのではないかという問いかけだ。
 もちろん、唯一神教のキリスト教は偉大な文化をこれまで創造してきた、と反論されるだろう。確かに、欧州の文化遺産はキリスト教の影響がないものは皆無と言っても間違いないだろう。 

 当方は8年前、イタリアのフィレンツで旧約聖書の英雄、ダビデ像を見学した。青年ダビデ像は裸体だ。ダビデ像は、神の信仰(キリスト教の信仰)と共に、人間の肉体の美しさを称えるヘレニズム文化を継承している作品だ。

 無形の神を崇拝するだけで、有形な形でそれを表現することを禁止すれば、文化は生まれてこない。欧州キリスト教文化はヘレニズム文化の助けを借りて構築されていった。ISが無形の神の世界に集中し、具象の世界を憎悪し、破壊し続ければ、新たな文化を創造できないわけだ。

 創世記によれば、われわれ人間は神の似姿であり、神の神性が具象化した存在だ。ISの論理を突き詰めていけば、人間も偶像ということになる。彼らが野蛮な方法で多くの人質を殺害できるのは人間を偶像と見なす人間観がその根底にあるからだ。極論すれば、自爆も同じ理由だ。「多くの人々を殺す自分も本来の姿ではなく、偶像だ」という結論になり、偶像の自分を破壊することで救済を希求するわけだ。

 少々飛躍するが、天使は無形の世界に住んでいる。神は自身の似姿としてアダムとエバを創造した。有形の世界で戯れるアダムとエバの姿を見た天使は彼らを羨み、最終的にはエバを誘惑して堕落させた。これは旧約聖書創世記の「失楽園」の話だ。有形な実態世界に対するISの憎悪は、神が人間を創造した後、天使ルーシェルが味わった思いを彷彿させるものだ。

(ウィーン在住)